松沢呉一のビバノン・ライフ

ソマリー・マムの経歴は完全な噓、人身売買の被害も捏造—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編2]-(松沢呉一)

人身売買・性暴力・性搾取をネタに金を集めた「詐欺師」ソマリー・マム—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編1]」の続きです。

 

 

 

自分の娘さえも利用して凶暴な敵を捏造する

 

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ソマリー・マムの噓は多岐に及びます。

彼女の体験談のほとんどすべては噓のようです。彼女が育ったスロック・クロイの住民たちによると、彼女は両親と移り住んできて、高校まで住んでいたようです。

ソマリー・マムの幼なじみは、ともに高校まで進んで卒業したと証言。高校の校長もそれを裏付けています(「卒業はしていない」と証言したとの話も出てますが、大差ない)。その友人とソマリー・マムは教員試験を受け、友人は合格しますが、あまり真面目な生徒ではなかったソマリー・マムは不合格に。

ソマリー・マムの体験談は、語る場によって変化しており、前述のように、12歳から10年間売春を続けたとすることもあれば、9歳か10歳から10年間と言うこともあり、著書では16歳くらいから売春をしていたことになっているそうです。勘違いすることはあり得るとして、9歳と16歳では大違い。

とくに彼女のように、自分のことを語ることが多い人は、自然と内容が安定してくるってものです。記憶違いがあったとしても、間違えたまま安定する。話すたびに数字が違うのはあまりに不自然であり、その場その場で都合のいい数字を選択していることがわかります。

ソマリー・マムの噓は国連でも披露されました。国連で証言した「カンボジアで少女8人が虐殺された事件」はまったく根拠がなく、彼女自身、「不正確だった」と認めています。不正確どころではなく、捏造とすべきです。

彼女が人身売買組織から少女を助けだしたことの報復として、2006年、人身売買組織は彼女の14歳の娘(ソマリー・マムの姪を引き取って娘として育てていた)を誘拐、強姦されるところを録画され、この犯人たちは捕まったものの、裁判中に罪を問われず釈放されたと彼女は言っていましたが、元夫のピエール・ルグロほかの人々はこれも虚偽であることを証言しており、警察にも誘拐された記録はありませんでした。娘はボーイフレンドとともに家出をしただけというのが現実でした。ソマリー・マム自身にも原因がありそうですが、それもすべて架空の人身売買組織のせいに。全部人のせいであるとともに、自分の娘まで、寄付集めのネタにする。

ここで私はフランス人の女スパイだったマルト・リシャールを思い出しました。「善人・聖人・正義の人を装う悪人」の典型である彼女は窃盗団に関与していたために警察に逮捕されているのですが、あたかも売春業者と警察が結託して、公娼廃止を実現した自分に嫌がらせをしたかのように記述しています。ごまかしのために、こんな話をでっち上げるマルト・リシャールとソマリー・マムは通じます。

「Newsweek」2014年5月30日号 この特集の一部だと思われますが、こちらで記事が読めます。執筆者のSIMON MARKSは「プノンペン・ポスト」にソマリー・マムについて書いていた人物のようです。文中で2012年から、彼女にインタビューを申し込んでいるのに拒否され、コメントも拒否し続けた旨を記述しています。自分にとって都合の悪い記事を出す人物には会わず、ヨイショ記事を出す人物や宣伝になる人物とだけ会うようです。

 

 

オーディションを通って被害少女を演じていたことを本人が告白

 

vivanon_sentenceソマリー・マムが存分に利用した「人身売買の被害者」の一人であるロング・プロス(Long Pross)という女性は、誘拐され、売春宿で電気による拷問を受けて売春を強いられ、二度の粗雑な中絶をし、怒ったポン引きによって金属片で片目をえぐられたと証言。彼女はソマリー・マムに救出されて、人身売買反対の活動家に。

しかし、親族や隣人らはこれを否定し、彼女は13歳の時に腫瘍で片目を摘出。医師もそう証言し、診察記録やその前後の写真も病院に保存されていました(片目がえぐれている彼女の写真も公開されています。彼女も「詐欺」の片棒を担ぎ、それでメシを食う悪人ですから、出してもいいのですが、ソマリー・マムに人生を狂わされた被害者でもあるので、写真を出すのが忍びない)。

もう一人のスター的な証言者であるミース・ラサ(Meas Ratha)も14歳から始まる壮絶な売春経験を語っていましたが、2013年、ついに本当のことを語り出します。ミース・ラサの親は7人の子どもを育てることができず、何人かの姉妹とともに彼女をAFESIPの施設に預けます。彼女は財団によるオーディションを受けて合格し、ソマリー・マムが書いた台本通りにリハーサルを繰り返して演技をしたのだと証言。彼女は渋々従ったと言っていて、施設に世話になっている立場では抵抗できなかったのでしょう。

 

 

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