松沢呉一のビバノン・ライフ

ロシア人が近隣諸国に抱く親しみの正体—国外脱出したロシア人たちの苦渋[17]-(松沢呉一)

ロシア人が親しみを抱いているフィンランドではロシア系への差別が激しい—国外脱出したロシア人たちの苦渋[16]」の続きです。

 

 

難民申請(亡命申請)が認められたロシア人は千人程度のよう

 

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不法入国したロシア人のインタビュー記事は見当たらなかったのですが、探すのが難しいし、探せたとしても取材には応じないでしょう。

ウクライナ侵攻以降、正規ルートで入国した人のインタビューも国内外ともに有意義なものは見つかりませんでしたが、データは出てました。

フィンランド移民局のサイトです。

 

 

2022年中のデータです。

2021年のロシア人の亡命申請は207件だったのが、2022年は1,172件。とくに動員令を契機に急増。

このうちの何人が亡命を認められたのかの総数はわからなかったのですが、フィンランドでの居住許可条件として就労のメドがあるのかどうかが重要視されていて、「親戚がやっている店で働く」といった具体的な雇用先があるだけでなく、専門技術のある人は居住が認められやすい。この条件が認められた人は、2021年は191件だったのが、2022年には874件に増加しています。ここでもやはりITの専門家が多いとあります。

国内での反政府運動によって指名手配されたといった人で認められた人も少しはいるでしょうが、数名じゃないでしょうか。

専門技術がない人でも受け入れられることはあるのですが、試験があって、フィンランド語を話せることが必須だろうと思います。英語ができれば生活するのに支障はないのでしょうが、それは知的階層であって、低賃金の仕事になるほどフィンランド語が必要になるのかも。皮肉ですが、これが現実です。

厳しいですが、ロシア人に厳しいだけでなく、移民・難民対策の再考を経た結果でもありましょう。個人で自立して生きていける人を優先。つまり、母国コミュニティを必要とせずに社会に溶け込める人々。それ以外の層は後回しであり、低賃金の仕事しかできない人ほど言葉が必要。

この申請は原則としてロシアにいる段階でフィンランド大使館に申請しなければならず、その段階で条件が提示されているので、条件を満たさない人は諦めることになり、亡命申請を出した人は高率で居住が認められたようです。総数で千人くらいでしょうか。

戦争以降、ロシアから脱出したロシア人は最大で100万人、少ない数字でも30万人とされていますから、フィンランドの千人はあまりに少ない。

一方、ウクライナ人の審査はゆるくて、万単位のウクライナ人を受け入れていて、こちらは一時保護という形式のようで、市民権までは得られないのだと思われます。

 

 

ジョージアを味方だと思うロシア人

 

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フィンランドに好感を抱いているロシア人が多いのに、フィンランドはロシア人に冷たい。この不釣合いな関係は、「ロシア人は鈍感」ということだけではなさそうです。

 

 

いつものことながら、煮え切らないロシア人たちに腹が立ちますが、フィンランドと「仲良くやってきたのに」と言っているヤツはもっと腹が立ちます。「NATOに入らなければ何もしない」と言ってますが、NATOに入っていないウクライナを攻めておいて、何を言ってやがる。

動画が見つからなくなってしまったのですが、1420で、「ロシアの味方の国はどこか」を聞いた回があって、その中で、「ジョージア」と答えた人がいたことに驚きました。たしかに政府はリスク回避のため、ロシアに対して低姿勢だったりしますが、国民の大半はロシアをよくは思っておらず、政府もさすがにはっきりとロシアの味方はしない。戦争をやって、領土の一部を奪われてますから。

おそらくジョージアを味方だと思った人もジョージアには親しみを抱いています。この親しみはバカにしているってことでもあります。あんな小さくて弱い国は言いなりであり、楯突くわけがないと。味方の国として日本を挙げた人も複数いて。「エーッ」と思ったのですが、これもバカにしているってことでしょう。

彼らの親しみは、子分、手下、属国としての親しみです。もともとロシア領だったバルト三国に対しても親しみを抱いている人はいそうです。あっちは蛇蝎の如く嫌っているのに。

もちろん、大半の人は世界から孤立して、嫌われる国になっていることは理解していて、「味方の国」としてもっとも多くの人が挙げていたのは中国でした。妥当です。ロシアと中国は表向き友好関係にありますが、互いに信用はしていないとよく言われます。

 

 

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