仁藤夢乃は理解できていないようなので、おとり捜査が適正な捜査として認められる条件を説明しておく—仁藤夢乃の発言は信用できない[3]-(松沢呉一)
「仁藤夢乃は売防法を曲解して拡散するのを直ちにやめろ!!—仁藤夢乃の発言は信用できない[2]」の続きです。
おとり捜査が違法である理由
まずおとり捜査が一般になぜ違法とされているのかを説明します。
たとえば売人に扮した捜査官が歌舞伎町の暗がりで声をかけるとします。
「大麻買わない? 売れ残って余っているので、相場2万円のところ、千円でいいよ」
大麻なんて買ったこともやったこともない人でも。これだったら買うのがいるでしょ。学校教員も銀行員も役人も医師も共産党員も学生もたいてい買いますよ。たいていってことはないにしても、声をかけた相手の1割くらい買いそうです。
だからダメなのです。おとり捜査は、その機会がなければ一生犯罪に手を染めることがなかったはずの人を犯罪に巻き込むことになります。このように新規に犯罪を誘発するタイプのおとり捜査は禁止されています。
同じ理由から、捜査員が声をかけなくても、どのみち大麻をやっていることが相当までに確認できている人物を逮捕するための最後のひと押しとしておとり捜査をしても、適正な捜査と判断される可能性が高い。
売春でも同じです。私服の捜査員が客のふりをして声をかけてくるおとり捜査は『闇の女たち』に出てくる札幌の街娼がやられていて、彼女は裁判で闘いますが、最高裁で罰金刑が確定。
なぜこの場合はおとり捜査が適法と認められたのかと言えば、彼女は同法違反の前科があったためです。その上、街娼の多いホテル街に立っていたため、十分に売春をしていることが推測できたわけです。
今回の歌舞伎町の一斉摘発でも警察は違法なおとり捜査にならないように、逮捕の前にも客とホテルに入るところを確認したり、別の日にも同じ場所に立っていることを確認するといった手間をかけているはずです。だから他に多数の街娼がいても、何人もの捜査員が出動して5人しか逮捕できない。
おとり捜査なしに捕まえるには、目星をつけた男女がホテルに入るのを確認し、出てきたところを任意同行で署に連れていって両者の証言を聞き取るという手もありますが、どちらかが同行や証言を拒否したらそれまで。
あとは入管とともに外国人を逮捕することもあり、こちらは在留カードやビザを確認して違反があれば逮捕できて、売防法違反を立件する必要はありません。
※街娼ストリート。この通りに立っているのはほとんどが外国人です。警官が見回りしているのに素通りです。そもそも街娼の逮捕は交番の警官の役割ではなく、彼らが街娼に対してできることは客と揉めたり、女同士で言い争いになった時に仲裁するくらいです。
売防法の捜査は手間がかかる
以上のように売防法違反の検挙は時間も手間もかかり、時に一人を逮捕するために、複数の捜査員が何日も忙殺されます。風営法の無届営業の店を摘発したり、18歳未満を補導する方が楽です。「街娼を片っ端から捕まえればいい」と言う人がいますが、そんな簡単にはいかないのです。
仁藤夢乃は買春者処罰を導入し、客におとり捜査をすればいいと言ってますが、売防法の捜査は慎重さが必要で、時間も手間もかかるかをわかっていない仁藤夢乃だけのことはあります。買春者処罰についてはまた改めてやります。
さて、自分を棚上げして仁藤夢乃が「ひどかった」と評した「毎日新聞」はこうまとめています。
保安課の幹部は「大半は逮捕されるまで、そのリスクを自分の事として捉えていなかった。売春そのものだけでなく、路上で買春客を待つこと自体が違法で、逮捕もあり得る行為だということを知ってほしい」としている。
仁藤夢乃の「脳内売防法」では、「女性のみが処罰の対象とされている」らしいですが、まったくのデマです。売春も買春もそれ自体は処罰規定がなくて、第五条の勧誘は男女ともに処罰されることは前回確認した通り。
「売春では処罰されない」という知識を自分に都合よく解釈している人たちがきっといて、第五条で逮捕されることを理解していないのでしょう。だから、正確な法の理解が必要なのです。
では、ただ路上で立っているだけで捕まり得るのかと言えばそんなことはありません。
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