日本のルールと夫婦のルールが風俗産業を成立させる—ドキュメンタリー映画で語った日本の風俗産業[3]-(松沢呉一)
「日本の風俗産業を知るための資料としてこだま著『夫のちんぽが入らない』を薦めた—ドキュメンタリー映画で語った日本の風俗産業[2]」の続きです。
車が来なくても信号を守るのが日本人
では、なぜこだま夫婦は、夫婦で性の悩みを解消できなかったのでしょうか。話が回りくどくなりますが、他のことにも転用できる内容ですので、おつき合いください。
「日本語よりも日本のルールとその原理を理解することの方が外国人には難しいかも—「あしや提案」とフランスの暴動から考える[前編]」に書いたように、日本は「ルールが細かくて厳しい」。
その理由については、「固定したメンツで成立する村社会においては、外部と内部を分けたがり、簡単に突破できない細かなルール設定が求められた。近代になって村が崩壊して、都市型の社会になると、人口が増え、混乱を避けるために、その細かなルールが転用された」といった説明が可能かと思いますが、ここでは理由はどうでもいい。そうなっている現実が重要。
そのルールには大きく二種あって、存在する理由や目的がわかりやすいルールと、教えられないと意味がわからないルールや意味が失われているルールがあります。
たとえば赤信号で歩行者が道路を渡ってはいけないルールは誰にでもわかります。もし誰もがこのルールを破ったら、交通事故が頻発して、渋滞が発生し、救急車やパトカーの出動が激増して、助かる人も助からなくなります。
また、車の場合は、事故った時の被害が大きいし、小回りがきかないので、どんな時でもルール遵守になるのはわかりますが、人の場合は融通を利かせてもいい。
深夜、見晴らしのいい場所で、車が来ないことを確認できる時には、このルールは意味をなくします。事実、こういう場合に私は信号を無視して渡ります。その結果、警官に見られて叱られたり、職質されたりします。
車一台しか通らない一方通行の細い道にも信号があって、それなら渡る人は3割くらいはいるでしょう。片側一車線、両側で二車線の道路で信号を無視するのは2割くらい。明治通り、山手通、246くらいの片側二車線の道路だと1割くらい。これらの道だと、深夜でも交通量が多いので、渡る気があっても渡れないことも多いでしょうが。
道路の半ばで車が来て、渡りきれないこともあって、私も時々中央分離帯で待つことになりますから、深夜でも交通量の多い広い道は渡らない方がいいとは思いますし、とくに敏捷に動くことが困難な老人や病人は渡らない方がいいですけど、体が動く人であれば、両側で二車線くらいの道路だったら渡っていいじゃないですか。しかし、8割の人は渡らない。
意味がなくてもルールを守るのです。第三者の目があるからではありません。人がいなくても守るのです。これがこの国の行動原理です。
※10年ほど前までは頻繁に行っていたカラオケ「パセラ」。他より料金が高いですが、曲数が多く、食べ物がうまい。
マスクに表れた日本人の特性
このような日本人の行動は、マスクにおいて顕著に表れました。同志社大学の調査は私にとっても驚きの結果でした。日本人がマスクをするのは、新型コロナに感染しないため、感染させないためではなく、ダントツで「周りがするから」でした。
私は「屋外ではマスクを原則しない。しかし、屋外でも多くの人がいて、声を出すような場面ではする。室内や公共交通機関内では原則マスクをする。しかし、室内や公共交通機関内でも、人があまりおらず、会話もしないところではしない。屋外、屋内でも、その場所を管理する権利者が、“マスクをすべし”というルールにしている場合は従う。より感染リスクが高いところではフェイスシールドをする」という自分になりのルールを作っていました。
たびたびマスク率について触れてましたが、深夜、人通りが少ない場所ではマスク率は下がります。ピーク時はそれでもマスクしない人が2割を超えることはなく、せいぜい1割程度。昼間だと、屋外でも1割を超えることはありませんでしたから、私と同じように「屋外ではしない」という個人ルールを実践していた人は数%だと思います。
この数%の人たちには一方的な親近感を抱いていて、私とはルールが違ってましたけど、屋外でもフェイスシールドをしている人や、銭湯のサウナでマスクをしている人にも「自分で判断をしている」という点で親近感を抱いていました(サウナは密室なのでマスクをしているのですが、高温多湿なのでウイルスは死ぬと思います)。
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