もしシェールが姫カットを「シェール・カットと呼べ」と言い出したら—文化盗用とパクリ[2]-(松沢呉一)
「「SHOGUN 将軍」で姫カットが人気に—文化盗用とパクリ[1]」の続きです。
灰野敬二と亀川千代
ベーシストの亀川千代が4月7日に亡くなったのですね。彼も姫カットでした。
数日遅れで気づいた訃報で、ゆらゆら帝国解散後は不失者に参加していたことを知りました。そういえば灰野敬二も姫カット系です。1970年代から、あの髪型だったんじゃなかろか。麻丘めぐみと並びます。男のミュージシャンで、他にもいたように思いますが、思い出せない。
では、前回の続き。姫カットの起源を日本の平安時代とするのはいいとしても、日本人が途絶えないように大事に保存してきたものではないですし、抜きん出た独創性があるわけでもなく、偶然そこに至り得るものですから、大事にしてこなかったくせに日本人というだけで、「わしらの髪型だ。勝手に真似するな」と主張するのは傲慢です。麻丘めぐみと灰野敬二だけは文句をつける資格があるかもしれないですが、それで言うと、シェールも資格があるかもしれない。
シェールが「あれは私が思いついた髪型であり、私のオリジナルである。よって、シェール・カットと呼んで欲しい」と主張した場合、どう考えるべきか。相当に奇抜な装飾をしない限り、髪型に著作権は発生しませんので、あくまでモラルなり、名誉なり、事実なりの主張。
誰の影響もなく思いつき得る髪型ですから、その主張を尊重したい人たちがシェール・カットと呼んでもいいし、名称は創作した人の名前だけでなく、知らしめた人の名前が冠されてもいいので、その意味でもシェール・カットでいいのですが、歴史的事実としては、それ以前から日本に存在していたのですから、「姫カットではなく、シェール・カットと呼ばなければならない」と主張したら、シェールが考えたとしても、その主張は不当としていい。
✳︎MIDI inc.より、ゆらゆら帝国のアー写
起源の主張は根拠が必要
では、紀元前のエジプトの遺跡から同様の髪型の壁画があることが根拠として提示され、「姫カットの起源はエジプトであり、日本は文化的盗用をするな」と主張した場合はどうか。
ここでも、名称は起源を示すものである必要はないので、引き続き「姫カット」でいいと思いますが、歴史的検証を経た上で、以降、「起源は日本ではなく古代エジプトであった」との記述が求められましょうし、そう確定して以降も「起源は日本」と言い続けることは文化盗用と言えるかもしれない。
この場合、日本がエジプト起源を知った上で、起源を詐称していたわけではないので、訂正すれば、責められるようなことではないですが、例えば、現代のエジプト人が編み出した新しい髪型を発表し、それを見た日本人の美容師が真似をして自分が考えたかのように発表した場合は、パクリですから、訂正するだけでは不十分であり、著作権に抵触しないにしても非難されるべきです。
この時に、エジプトと日本の国家間の力の差によって、日本がオリジナルかのように思われたとしたら、ただの個人のパクリではなく、文化盗用とのフレームで語られることがあるかもしれない。
✳︎ソニー&シェール(Sonny Bono and Cher in Italy in 1966. PHOTO: MARCELLO SALUSTRI)
文化盗用として非難されていい例があるとするなら
前回、「文化盗用として批判されていいケースはあり得る」と書きましたが、これについては、以前その例を書いたことがあったはず。「ビバノン」で検索しても見つからないので、メルマガ時代だったかもしれない。
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