『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』
製作 世界の亀山モデル
監督 本広克行
脚本 君塚良一
出演 青島くんと室井くん。その他テレビでおなじみ湾岸署の皆さん総出演。
さて、FINALといいつつも「新たなる希望」だったりするどっちつかずというよりは続篇への未練たらたらな『踊る大捜査線』シリーズ最終作、道路でばったり倒れる織田くんの姿に「さらば、青島」とかいうコピーがかぶさって、「青島刑事が死ぬ!?」とか煽っていたわけだが、そんなの信じるわけがない。これまで何度「青島最後の日!?」と煽られたと思ってるんだ。むしろ二度と織田くんの顔を見たくなかったとも言われるギバちゃんの心の叫びなのでは?などと思ったりしたわけだが、現実はこちらの予想をはるかに超えてさらに強烈な驚きが待っていたのである。
このシリーズ、回を重ねることにフィーチャーされる脇役のキャラが大きくなってきて、すでに映画の体をなさない単なるバラエティショーになってしまっているのはみなさん先刻ご承知だろう。署長ら“三馬鹿トリオ”やユースケ・サンタマリアら、本来ならモブでいいようなキャラにもいちいちセリフと見せ場を作ろうとするので、話は長く、物語は軽くなる一方。前作などとうとう死んだいかりや長助(和久さん)のかわりにその甥っ子が登場して、いかりやの決めゼリフをいちいち読み上げるという始末。たぶん世の中には和久さんのファンという人もいるのだろう。だがファンとて、別にゾンビと化した「いかりやの人生訓」を聞きたいわけではあるまい。そのことにさえ気づかないのが前例踏襲で作られていくキャラ映画の恐ろしさである。そんなところに妙に深刻ぶったテロリストや連続殺人鬼があらわれても、ただのコントにしか見えないのだった。
コント映画にふさわしく、映画がはじまると青島(織田裕二)とすみれ(深津絵里)は若夫婦として『三丁目の夕日』みたいな商店街でからあげ屋をやっている。働き者の若妻とサボってばかりだが陽気な若旦那のコンビで店は今日も大繁盛。すみれは今日もニコニコ青島をしかりつけ、青島は商店街の爺さん相手に油を売っている。爺さんの一人息子は家出して帰ってきていないのだ。と、そこへ何年も家出していた息子が帰ってくる。その顔は……窃盗傷害の指名手配犯!
確保だっ!と大騒ぎのあげくに青島は息子を逮捕する。この若夫婦コント、実は指名手配犯の息子をつかまえるための張り込み作戦だったのだ!
二週間の張り込みで町内の人気者で店が大繁盛になるのか(そもそも湾岸署の管轄内のどこにあんな下町があるんだよ)とかそもそも費用はいくらかかってるのかそういう突っ込みをするより何より、これ、青島を信用して打ち明け話をしていた爺さんにとってはてひどい裏切り行為だと思われるのだが、もちろん青島にそんな人情の機微がわかるわけもなく。
コント気分もさめやらぬ中、湾岸署に戻って深刻な顔をしているのが深津絵里である。実はシリーズ何作目かで狙撃された肩の銃創が完治しておらず、日常生活にもさしつかえるほどの痛みをかかえていたのである。もはや警察勤めは不可能、と思い定めた深津は退職を決意する。だが湿っぽいのは嫌いなので、誰にも退職については言わず、一人故郷大分行きの夜行バスに乗る。一方そのころ湾岸署管内では白昼いきなりの誘拐事件が発生していた。銃をつきつけて衆人環視の中で男が誘拐され、そののち銃殺死体で発見される。その銃は、六年前の幼女誘拐殺人事件で使われた証拠品だった。証拠品が盗み出され、殺人の凶器となっては警察全体の責任が問われるのは必至。あと三ヶ月で定年を迎える警察庁長官は鳥飼管理官(小栗旬)を使って事件のもみ消しをはかる。
物語が難解になるのはここからだ。小栗は早いうちから事件の真相を掴んでいる。これは六年前の幼女誘拐事件で、捜査ミスでむざむざ幼女を死なせてしまったことを悔いる久瀬刑事(香取慎吾)が、証拠不十分で無罪となったその犯人を狙って起こした事件なのである。そもそも鳥飼は誘拐犯が無罪になり、証拠品が戻ってきたことをわざわざ長官に報告に行ってさえいる。誘拐され、殺された男は誘拐犯の共犯者だったのだ。小栗は犯人が久瀬であることを上層部に報告する。上層部は不祥事発覚を恐れ、適当に犯人をでっちあげるように命じる。たとえ公判が維持できなくても、退職までの三ヶ月間、真犯人があがらなければ充分である。いざとなれば、青島に誤認逮捕の責任をとらせ、上司の室井(柳葉敏郎)ともども辞職させればいい。
意味わかる?
この時点で
1) 久瀬の身柄は確保されていない
2) 誘拐の主犯は保護されていない
3) 青島を筆頭に湾岸署の刑事たちは何も知らない
4) そもそも室井は青島の上司じゃない(青島馘首計画が発動してはじめて彼は湾岸署に送り込まれる)
これで青島をクビにして、いったい何が解決すると思ったんだろうか。予想通り、久瀬は主犯の男を射殺。さらにユースケ・サンタマリアの子供を誘拐する(実はユースケは六年前の事件で、交渉を打ち切って子供が殺される原因を作っていたのである)。二件の殺人となんの罪もない子供の誘拐を座視した小栗はクールに構えてるんだが、どう考えてもこいつがいちばん悪い。実は六年前の犠牲者の母親の弟(てか、要するに犠牲者の叔父さんですな)だった小栗は、捜査の現場を無視して勝手な命令を下し、保身に走る警察組織は間違っており、膿を出さなければならないと考えてわざと久瀬の暴走を許していたのだ。ただのテロリストじゃねえかそれ。誰も突っ込まないのだが、共犯者がなぜ判明したのかも不明だし、そもそも主犯は裁判で「無罪」になっているのだ。殺されたのが本当に犯人かどうかすら、物語の中ではわからないのである。しかしもちろん、このバラエティ映画においては、誰一人(青島ですら)容疑者の処刑に異を唱えたりはしないのだった。
さて、無罪になった男が射殺されても指一本動かさなかった青島くんだが、子供の誘拐となれば話は違う。警察手帖を取り上げられながらも勝手に現場に向かうと、「犯人の気持ちになってみろ」との教えに従い、「なんとなくオレが犯人ならこっちかな~とふらふら走ってみる。室井も携帯で「青島、おまえが犯人だ!」と煽る。青島は山勘にしたがって倉庫街を走る。トレードマークの米軍放出品のカーキのコートをひらめかせて走る!
一応このシリーズにおいてはコートをひらめかせて走る青島が超セクシーということになっているので走る!(そういえばオープニングタイトルでも延々走っている!)このクソ暑いのにコートかよと思うかも知れないが、湾岸署においては青島のナルシシズムの都合上いつも冬なのでこのドラマも12月の出来事なのだった。ともかく青島は走る!
しかしいいかげんこのシリーズも15年もやってるしな……室井にも「おまえいくつになったんだ」とか言われちまったよな……もう四十越えた身で、ひたすら走るのも辛いよな……そう言えば思い出したけど、オレも腰の古傷が痛むんだった……なんか息も切れてきた……疲れた……もう……限界……バタリ
「さらば、青島」
ってこれかよ! 単に走り疲れてコケただけじゃねえか。煽るにもほどがあるわい。で、コケたところで顔をあげると目の前に輸入バナナの倉庫がある。ここに違いない!
なぜかって? 子供はバナナが好きだからだ!
その情報を得た室井、満面のドヤ顔で
「全捜査員に次ぐ、バナナだ!」
とやかくあって、最後は織田くんが密着しないように微妙に腰の引けた感じで深津絵里の肩を抱いて「警察、やめないよね?」と言っておしまい。めでたくシリーズ完結!ギバちゃんもオレも喜んでるよ!
http://youtu.be/QRuhceckzdE
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