柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『振り子』 これほど「誰得」という言葉がふさわしい企画もあるまい・・・ まあ「吉本得」なわけだが (柳下毅一郎) -3,538文字-

FireShot Screen Capture #011 - '映画『振り子』公式サイト' - furiko_jp

 

『振り子』

監督・脚本 竹永典弘
撮影 西雄一
原作 鉄拳
出演 中村獅童、小西真奈美、武田鉄矢、石田卓也、清水富美加、松井珠理奈

 

 

 

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「世界中が涙した「鉄拳」のパラパラ漫画が映画化」である。これである。

 

これを実写化しようと考えた阿呆がどこのどいつか知らないがーー てか、たぶんよしもとクリエイティヴエージェンシーの人間だと思うわけだがーーその阿呆に言っておくことがある。「鉄拳」のアニメ自体はたしかによくできているが、それは振り子時計を使ったアイデアがうまかったわけで、別に視聴者はカビの生えた夫婦愛のストーリーに感動してるわけじゃないんだよ! しかし馬鹿なのか邪悪なのかわからないよしもととTBSの見事なタッグによって見事ストーリーだけを採用した実写映画が実現してしまったわけである。これほど「誰得」という言葉がふさわしい企画もあるまい(まあ「吉本得」なわけだが)。

 

 

物語はベッドに寝ている小西真奈美を見守る中村獅童の述懐からはじまる(もちろん副音声仕様なので心の声はすべて可聴化される。されいでか!)。「俺はいつからこうしておまえの隣に座っているんだろう……」なぜか小西真奈美も中村獅童もまったく老けメイクをしておらず、実年齢どおりの姿。え、これって老夫婦の夫婦愛の話じゃなかったの? と頭をひねっていると、時代はさかのぼる。

1976年

大介(石田卓也)は17歳の高校生。まったく営業中には見えない映画館(なんせ「次回上映」のところに貼ってあるのがポスターじゃなくてチラシ!)の前で不良にナンパされているサキ(清水富美加)を助けると、相手ははじめて見た動くものを親と誤認するヒヨコのように後をついてくるようになる。大介の親代わりの八百屋(武田鉄矢)から「あの馬鹿だけはよしたほうがいいよ!」と忠告されてもしつこくつきまとうサキ。「電話番号教えて!」って頼んで「電話なんかないよ!」と返されると「じゃあこれで話して」と持ってくるのが糸電話。「糸電話で話できるわけないだろ!」「話せるよ!だってこの糸赤いもん!」「白い糸じゃねーか」「赤いの!」アニメと同じ場面だが、実写でやられると本当に馬鹿みたい。まあそういうわけで付き合うようになった二人、高校を出てすぐに結婚を決意する。

1979年

サキの家に挨拶に行った大介は両親に土下座して

「サキさんを必ず幸せにします!」

サキは

「わたしにはなんの夢もないから、彼の隣で夢を叶えるのを見たいの!」

いやあどうなんだよそれ。18歳そこそこで「夢がない」というところにこの悲劇の根本の理由があるような気がするんだなあ。親も娘がこんなこと言いだしたら張り倒して「目を覚ませ」って説教すべきだと思うんだが。そういうわけで二人は1980年の正月元日に入籍する(「元旦入籍」「元旦が結婚記念日」とくりかえすので、「元旦ってのは元日の朝のことなんだよ!」と一人突っ込み)。お金はないので式はあげずじまい。手を繋いで銭湯に行った帰りにあんまんをほおばって嬉しそうなサキ。

「わたし、こういう貧乏生活に憧れてたんだ」

少なくとも1980年にはそれは憧れではなく現実だったと思うのだが。そんな神田川生活を送る二人、壁掛け時計が欲しいと時計屋に足を運ぶと中古の振り子時計を勧められる。

「振り子時計ってのは、右の振り子と左の振り子、両方が力を合わせて時を刻む……夫婦みたいなもんだよ」

と振り子の原理をまったく理解していない時計屋の主人からうまいこと言われて、物語のテーマが設定されたのだった。

 

 

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tags: 中村獅童 副音声映画 吉本興業 小西真奈美 松井珠理奈 武田鉄矢 沖縄国際映画祭 清水富美加 石田卓也 竹永典弘 鉄拳

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