柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『美男ペコパンと悪魔』 原作ヴィクトル・ユーゴー! 主演は元テニミュとAKB! 人気の2.5次元俳優に中世の騎士のコスプレさせれば人気さらに倍! みたいな思いつき?

公式サイトより

美男ペコパンと悪魔

監督・脚本・VFX・編集 松田圭太
原作 ビクトル=マリー・ユーゴー
企画・製作総指揮 堀江圭馬
撮影 今井哲郎
出演 阿久津仁愛、下尾みう、吉田メタル、岡崎二朗、堀田眞三

原作ヴィクトル=マリー・ユーゴー! 主演は元テニミュとAKB! だけど原作はユーゴー! これがどのくらいすごいことかというと、(c)表示が「(c)2023映画「美男ペコパンと悪魔」製作委員会(ヴィクトル=マリー・ユーゴー著)」となっていて大笑いしたくらいだ。ユーゴーは製作委員会まで書いたのか! ともかく本当に「美男ペコパンと悪魔」という短編小説があるのだが、いまだかつて一度も映像化されたことがないのだという(「美男ペコパンと美女ボールドゥールの物語」ユゴー『ライン河幻想紀行』岩波文庫所収)。それが現代のCGIによってついに映像化されたのである。

そういうわけで。舞台:立川。

なんでだよ! ユーゴーじゃないのかよ! 立川駅前でいちゃいちゃデートしている隼人(阿久津仁愛)と亜美(下尾みう)。待ち合わせに早く着いて、ハードカバーの本を読んでいる隼人。

 

 

「表紙がキラキラしてていいだろ(金箔捺し)」という隼人。それが『美男ペコパンと悪魔』である。読書家の亜美に勧められて『レ・ミゼラブル』を読んで、面白かったから他の本を読んでみたのだ、という。ところで亜美、「『レミゼ』とか『ノートルダムの鐘』とか」と言ってる時点で、おまえも本読むんじゃなくて映画かミュージカルしか見てないだろ! 原作読者は普通“レミゼ”なんて略さないし、『ノートルダム・ド・パリ』が結構な大作だということも知っているよ!

そんな似非読書家カップルの二人、デート中に翌週の予定で喧嘩になってしまう。花火大会に行く約束があったのに、隼人が勘違いして友人とライブに行く約束をしてしまったという

「もう知らない!」と店を飛びだす亜美。後を追ってこない隼人にちょっぴり失望。翌日、メッセージを送ると電話がかかってくるではないか。
「あら、隼人ママ! どうしたんですか?」
「あの子、昨日あなたと別れたあと車に轢かれてまだ意識が戻ってないの!」

 慌てて病院に駆けつける亜美。ベッドの枕元には読みかけの『美男ペコパンと悪魔』が置いてある。とりあげて、パラパラとめくってみる亜美。

……そこからはじまるのが美男の騎士ペコパン(阿久津仁愛二役)とボールドゥール姫(下尾みう二役)の恋物語。そう、やっとここからユーゴー・パートがはじまるのであった。そもそもなんでこんな映画作ろうと思ったのかよくわからなかったのだが、人気の2.5次元俳優に中世の騎士のコスプレさせれば人気さらに倍! みたいな思いつきだったのだろうか? ちなみに本作の企画と製作総指揮をつとめ、実質的な製作の原動力となっているのはぺんてる株式会社の社長である堀江圭馬氏。エナージェルのボールペン何本分の利益で作られたのか!? 以下、ほぼコスプレした二人が秩父あたりの河原をうろうろしてるだけの映像が続く。映画は亜美が読むペコパンの冒険物語と、病室で隼人のことを思う亜美のパートとが交差する構成で、騎士のコスプレした阿久津仁愛が大活躍。

 

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tags: 2.5次元映画 AKB48 テニミュ ビクトル=マリー・ユーゴー 下尾みう 今井哲郎 吉田メタル 堀江圭馬 堀田眞三 岡崎二朗 松田圭太 阿久津仁愛

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