「饒舌なレイシスト」が語った身勝手な論理。ウトロ地区・名古屋連続放火事件第2回公判再現記録<前編>
「身勝手で浅はかで自分勝手な思いが語られただけ。悔しくてなりませんでした」
ウトロ平和祈念館の金秀煥(キムスファン)副館長は言葉を詰まらせた。
6月7日、宇治市(京都府)のウトロ地区で昨年8月に起きた放火事件などの第2回公判が京都地裁であった。この日おこなわれた被告人質問は2時間半に及んだが、被告が饒舌に語ったのは、まさに「身勝手で浅はかで自分勝手な思い」だけだった。公判直後の会見で金さんが口にした「悔しさ」を、たとえば同じく傍聴席にいたウトロ町内会長の山本源晙さんも共有する。
「結局、(被告の)言い訳やこじつけを聞かされるだけだった」
山本さんは苦渋に満ち満ちた表情でその日の裁判を振り返る。
「外交関係や政治に問題があるとか、日本と韓国の関係がどうのこうのと言うてましたが、ウトロに住んでいる住人と何の関係があるのか。ただ差別の理由を説明してただけやないですか」
まったくその通りだった。「差別の理由」を延々と聞かされた山本さんは「やはり、こんなんは許しちゃいかんと思った」と語気を強めた。
これは単なる放火事件ではないのだ。在日コリアンへの差別と偏見を背景とした、ヘイトクライムである。
(編集部註:事件の詳細については、以前に報じた記事をご覧ください)
今号では前後編の2回に分けて、筆者のメモを元に公判でのやりとりを再現する。
まさか本誌読者が法廷での発言に影響されるとは思わないが、ヘイトクライム加害者である被告男性(奈良県桜井市在住・22歳)がいかに陳腐で誤った自説を開陳したのか、そのことを理解いただくうえでも、必要部分においては筆者(安田)の注釈を加える。
なお、今回の記事に関しては被告の名前を明記しない。
それは、彼の名を世の中に残したくないからである。
2019年、ニュージーランド・クライストチャーチのモスク(イスラム教礼拝所)で約100人が死傷する銃撃事件(ヘイトクライム)が起きた際、同国のジャシンダ・アーダーン首相は次のように語った。
「男はこのテロ行為を通じて色々なことを手に入れようとした。そのひとつが、悪名だ。だからこそ、私は今後一切、この男の名前を口にしない。皆さんは、大勢の命を奪った男の名前ではなく、命を失った大勢の人たちの名前を語ってください。男はテロリストで、犯罪者で、過激派だ。私が言及するとき、あの男は無名のままで終る」
今回は、私もこれに倣いたい。
まったく反省の色を見せることのない犯人の男は、レイシストの放火犯である。彼の非道な行為を「無名のままで」厳しく批判し続けたい。
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