バスケットボール・クラッチ

ブレックス#13渡邉裕規「“いかに勝つ試合に関われるか”。渡邉が一番、価値を置くもの」(インタビュー・コラム)

2023-24シーズンも終盤を迎えた大事な試合で、爆発的な活躍を続ける渡邉裕規。3月30日のアウェー・シーホース三河戦では、10分足らずの出場でPシュート本を決めるという好調ぶりだ。実はその数日前に、練習場におじゃまして渡邉に話を聞いていた。今になって思えば、本文で登場する“ある言葉”が、渡邉を奮い立たせるきっかけになったのかもしれない。(文/藤井洋子)

 

「誕生日おめでとうございます」

仙台89ERSとの連戦に向けた前日練習を終えたブレックスアリーナ宇都宮で、こう声を掛けた。202422日、渡邉裕規はこの日、36回目の誕生日を迎えた。

「やっぱり年は感じますね。この年になるとお腹が出たり、白髪が出てきたりするけど、そういうことに気を付けて、36歳には見られないようにしたいなと思います」と冗談交じりに抱負を語った。

 

昨年月。まだ開幕前の時期に練習取材をした時のことだ。夏には日本中が盛り上がったW杯があり、日本代表のアシスタントコーチ(AC)として帯同していた佐々宜央ヘッドコーチ(HC)に、「代表のトム・ホーバスHCを近くで見る中で、影響を受けたことはありますか?」と質問をした。その時、佐々HCはこんな話をしてくれた。

「富永啓生の使い方を見てびっくりしました。それをブレックスに置き換えた時に、リンクしたのが渡邉でした。ナベは、バスケット界で見ても特別なものがあるし、もともとのシュート力はすごいです。そういう良いところがあるんだったら、やっぱりそこを最大限に使っていきたいと思いました。もちろん、シーズン中にあまりにもシュートを決められなかったらダメですけど、チャンスは与えていきたいなと思っています」

この言葉を聞いて、今シーズンの渡邉の活躍を密かに楽しみにしていた。

渡邉自身も開幕前の夏の時期から激しいトレーニングに励んでおり、こうした準備もあってか開幕節の群馬クレインサンダーズ戦2戦目(2023108日)では15得点(12分出場)を挙げる大活躍。しかし、その後はなかなかプレータイムが延びていかない時期が続いた。

 

渡邉流インパクトの残し方

渡邉はもともと、毎試合2桁得点を叩き出して数字でインパクトを残すタイプの選手というよりも、ここぞという重要な局面で劇的なシュートを決めて、会場の雰囲気を一瞬で自分のものにする、そういうインパクトの残し方をする選手である。今シーズンも雰囲気をガラリと変えるようなシュートを決めたシーンがあったが、本人は自身のパフォーマンスについて、全く納得していない。

というのも、昨シーズンのこの時期は、笠井康平(現・バンビシャス奈良)とツーガードで試合に出ることで、「自分がやるべきプレーが明確になった」と話していたのだが、今シーズンはその時とはまた違う状況になっているからだ。

強烈なインパクトを与えるDJ・ニュービルや比江島慎と一緒にコートに立つのか、鵤誠司と組むのか、はたまた若いメンバーと出るのかなど、組み合わせのバリエーションが増えた分、「どのメンバーで出た時に、自分がどういうプレーをするのかは難しい部分もある」と明かす。しかし、「優れたメンバーがいる中でも、自分の良さを出す場面を自分でつくっていかなければいけない。どちらにしても、もうちょっと積極的にシュートを打っていきたいです」と力強く語った。

その一方で、いざコートに立っても “自分の良さを出す場面を自分でつくれていない”と感じるのは、「もしかしたら年齢を重ねるギャップなのかもしれない」と打ち明ける。

「心は若いつもりでも、体は昔に比べて動いていないのかも。でもそれは、田臥(勇太)さんや(竹内)公輔さんなど、僕より年齢が上の人たちがみんな通ってきた道でもあります。年齢を重ねても、いかにチームの勝利に関われるかが重要で。“いかに試合に関われるか”ではなくて、“いかに勝つ試合に関われるか”。自分の中で、一番価値を置いているのは、そこですね」

わざわざ言い直した部分に、渡邉の強い想いが表れているのを感じた。

 

 

コート上で“演じる”ということ

渡邉はベンチにいる時も周りへの声掛けをして、その場を盛り上げる振舞いを続けてきた。チームの勝利のために、コート外でもできることに徹する。それは、我々からは見慣れた渡邉の姿だが、普通に考えればそれがとても難しいということも分かる。それを自然にやってのける渡邉は一体どんな想いで…と考えたところで、いや、そう見せているのだろう、と思い直した。それが、“我々が見たい渡邉裕規という選手の姿”であり、彼は周りからそれを求められていることも熟知している。

 

2017月、渡邉の引退記者会見後に取材の機会をいただいた。「キャリアの中で学んだこと」を聞いた際、渡邉は「自分というのはこういう人間なんだよということを、コート上できちんと表現しろと言われたこと」と答えた。

「ファンの人は、僕がどういう選手なのかを見たいんだと思うんです。それが例えば自分の意に反していたとしても、『演じることは大事だよ』って言われたことがありました。この言葉は結構、響きましたね。ああそうか、と。普段のままやっていてもダメだし、自分とはどういうものなのかということを表現する場なんだから、バスケットボールプレーヤーの『渡邉裕規』を演じないとダメだと言われて、それがプロ意識なのかもしれないと気付きました」

 

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