ジョー・コッカー 『ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ』の痙攣ダンスは、やがてサザン・ロックへと・・・(久保憲司)
前回の世界ロック記憶遺産100で今僕らに必要なのは痙攣と書きました。
痙攣ってなんやねんという声も聞こえてきそうですが、パンクの頃に痙攣って大事でした。今から考えると痙攣が僕らのサイケデリックだったのかなと思ってしまいます。
ジョイ・ディビジョンのイアン・カーチスも痙攣してました。とんでもないダンスです。
ジョイ・ディビジョンの元ネタの一つであるペル・ウブから来てるのでしょう。誰も指摘しないですが、ジョイ・ディヴィジョンとペル・ウブ似てるでしょう。ペル・ウブのシンガー、デヴィッド・トーマスは太っていたので、痙攣ダンスとかはしてなかったですが、ジョー・コッカーもびっくりするくらい全身震わせながら歌ってました。
今から考えると全ての痙攣の始まりはジョー・コッカーのような気がします。映画『ウッドストック』でビートルズの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」をカヴァーする彼を見て「こんなアホみたいな動きでちゃんと歌えるのか」と子供の頃は笑ってました。でも、大人になって歌詞が分かるようになったらホロッとします。
“僕がキー(音程)を外して歌ったら、君はどうする?
どっかに行ってしまうかい?
音が合っているか教えて、その通りに歌うから。
キーを外さないように頑張るよ。
君(友達)の助けがあれば出来る。
君の助けがあれば気持ち良くなれる。
君のほんの少しの助けがあれば”
「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」
ジョンやポール、ジョージに比べたら、少しキーが低かったリンゴが、みんなに出せない音を「頑張れ」「後もう少しだ、やれる」「もう一回、次は絶対出る」と仲間たちに助けられながら歌っていたことを再現したかのような歌です。涙が出ます。
ジョー・コッカーもまさにそうですよね。全身全霊を傾け、あんな風にして歌ったら、出せる音も外してしまいます。なぜあんな風に歌うか、黒人のように歌いたいからです。黒人であそこまでして歌っている人はいないんですど、斜陽していく工業都市シェフィールドで生まれたジョー・コッカーはなんとかそこから抜け出すために、潰れていくような工場で働くしみったれた労働者に何かなりたくないと体を振り絞りながら歌ったのです。
その姿はウッドストックの何十万人だけじゃなく、映画として何百万人もの人に見られました。もがき苦しむかのように声を出して歌う姿、キーがあと少しで正確な音程に届くか届かない所で消え去るかのような叫びに、ヒッピー世代の若者たちは彼と自分を同化させたのです。
ウッドストックのヒーローはジミヘンでも、金髪のカーリー・ヘアーを優雅に震わせるザ・フーのロジャー・ダルトリーではなく、当時誰もが来ていた絞り染のTシャツで歌うジョー・コッカーだったのです。
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