暗かった。ニュー・オーダーも「ブルー・マンデイ」で呪いを何とか解こうとしたけれど、ぜんぜん、解けなかった …ポスト・パンクの死 – [ロックの闘争(7)] (久保憲司)
→前回から続く
昔『ロックの闘争』という電子書籍を出していたのですが、ネット上からなくなっているので、6回くらいに分けてここにもアップして行きたいと思います。昔読んだことあると思う人はすいません、でも、今読むとまた感覚も違うかもしれません、自分のロック史を語りながら、ロックがどのようにカウンター・カルチャーだったかということを書いた連載です。自分で言うのもなんでが、結構面白いと思います。
ポスト・パンクの死 – 2
ジョイ・ディヴィジョンと同じマンチェスターから登場したザ・スミス(注 .1)も同じくパンクの子供であったが、彼らはもう新しいヴィジョンを提示しなかった。ザ・スミスの歌は、パンクとして戦い、敗れた者達が、敗戦後どう生きていくかの方法論でしかなかった。それは、肉を食わずに生きようと呼びかけ、ゲイを装い、フェミニズム的な視線でマジョリティにただ嫌味を言うだけの存在。イギリスは僕たちを養っていく義務があると歌うことでしかなかったのです。
そして、ギターにファズを通しノイズを出せばすべてオッケーなのさ、とばかりに登場したグラスゴーのザ・ジーザス&メリー・チェイン(注.2)もまたそのようなバンドだった。そこにはもうすべてを投げ捨てた若者の虚無感しかない。彼らは本当にそういう人間だった。失業保険をもらい、毎日ハッパ=メリー・チェインを吸って日々をだらだらと生きていくだけ。彼らが唯一救いを求めているのは何とか美しいメロディを引き出そうとするおぼろげな歌声だけである。
なんてね。とっても暗くなりました。しかし、あの頃のイギリスは暗かったのだ。クラス(注.3)のコミューンにあるスタジオで録られた ジーザス&メリーチェインのデビュー・アルバム『サイコ・キャンディ』は名盤だ。世界一のアナーキスト・バンドのスタジオで録音するバンドが、自堕落なバンドなわけない。ちゃんと意識したバンドである。あの暴動ライブもとっても楽しかった。暴動が収拾つかなくなってメンバーは楽屋で震えていたらしいけど。でもいいじゃない。ザ・スミスも初期のライブはいつも最後の曲「バーバリズム・ビギンズ・アット・ホーム」でお客がステージに上がっていた。この曲もホワイト・ファンクの傑作だ。
エコバニのライブも、最後はお客がステージに上がっていた。バンドがお客をステージに上げていたのに、お客が「俺たち仲間だよな」って、感じでイアン・マッカロクと肩を組もうものなら、マックは、「俺に触んじゃない」と言うかのように、お客の手を払いのける。それがとても可愛かった。そういうところに、僕はパンクを見ていた。
あの頃のポスト・パンク・バンドのライブはいつも、お祭りというか儀式のようだった。パンクの、ツバを吐いて自分たちの体液を擦り合わせるかのようなライブも、言ってみれば俺とお前は一緒だぜという意思表示であり、儀式であった。
エクスタシーを食うと尋常じゃないほど汗が出るんだけど、レイヴでその状態で抱き合っているイギリス人を僕は横で見ながら、パンクのコンサートに近いなと思っていた。レイヴではレイン・ダンスと呼ばれる現象があって、フジロックのレッドマーキーのような5千人クラスのテントで、そこにいる人間が全部エクスタシーをやっていると、それはそれは異常な量の汗が出る。それが水蒸気になって、天井に溜まり、朝冷えてくると雨のようになって降り注ぐのだ。それをレイヴァーたちは恵みの雨だとばかり狂気乱舞して浴びたりしていたのだが、僕はむっちゃ汚いやんと冷静な感じで見ていた。でも太古のパーティーはこうやってみんながひとつになっていたのかなと想像もしていた。
そんなレイヴの興奮を、ロックの世界に持ち込んだのが、ストーン・ローゼズだった。パンク、ポスト・パンク、ストーン・ローゼズなどのマッドチェスター(注.4)のライブ、きっといつもイギリスのいいバンドのライブはそういうお祭りっぽい感じになるんだろう。アメリカのフガジ(注.5)のライブもそんな感じだったな。彼らはいつも普段誰もやらないような場所でライブをやる。それは、ライブハウスがルーティン化して、商業主義にハマり込んでいるんじゃないか、という疑問から来ている。でも、そういうところでのライブの方が、なんかお祭りぽくなっていくんだよな。
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