久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ヴァンパイア・ウィークエンド 『ファーザー・オブ・ブライド』・・・インディーズ・バンド史上初となる全米チャート初登場1位のアルバムを全曲解説

 

フジロックのヘッドライナーのステージで「次のアルバム、やっとマスタリング終わったよ」と言っていたので、遅れに遅れていた三作目もついに完成かと思っていたら、それから一年近く何の音沙汰もなく、どうなることかと思っていたのですが、ついにリリースされたヴァンパイア・ウィークエンド『ファーザー・オブ・ブライド』。結構ダメかと思ってましたが、見事全米1位を獲得、インディーズ・バンド史上初となる全米チャート初登場一位を獲得、よかったです。

どんなことを歌っているのか全曲解説したいのですが、簡単にこのアルバムがどんなアルバムかと書きますとカントリー・アルバムです。えーカントリーという声が聴こえてきますが、映画監督のコーエン兄弟などがカントリー映画を作るような感じです。今のアメリカは何なのかということを提示するとしたら、やっぱりカントリーをやらないとダメなんですよ。

なぜカントリーかというと、曲の解説の部分でも書いてしまったので重複してしまいますが、細野晴臣さんが70年代にやったこととリンクしているのもあると思うのです。自分たちが好きな音楽がどうやって生まれてきたかということを考えるのって重要だと思うのです。カントリーという言い方はおかしいですかね、アメリカン・ポップ・ミュージックを現代でやろうとしているんだと思います。ソウル、ディスコ、カリプソ、レゲエ、パンクもみんなアメリカン・ポップ・ミュージックから生まれたのです。アメリカン・ポップ・ミュージックのルーツのようなアフリカン・ミュージックもアメリカン・ポップ・ミュージックに影響されて進化したのです。

僕たちが興味があることって、新大陸に新しい人間が移動した時に生まれた音楽になぜ僕たちは惹かれてしまうかなわけです。

そして、なぜその人たちが世界をリードし、分断させようとしてるのかということなのです。エズラはそれが何なのか知りたいんだと思います。『花嫁の父』というタイトルにはそれが込められているのでしょう。僕たちの反対側の人を生んだ人はどんな人なんだろうと。多分これみんな一番気にすることなんじゃないでしょうか?

右と左の人はすぐに反対とか糾弾しようとしますが、このアルバムはそんなアルバムではありません、なんとかこの反したものが一つになれないのかなと模索するアルバムです。

そしてもう一つ付け加えたいのはエズラの製作したアニメ『ネオ・ヨキオ』を観たら分かるんですけど、彼は物語より世界観を重視した現代の思想、アートのこともよくわかっていて、これが答えだというない世界でなんとか芸術を作っていくことをちゃんと理解した人だというのがよく分かります。

それでは全曲解説いってみたいと思います。

1.「ホールド・ユー・ナウ」

ハイムのダニエルをフューチャーした曲。映画『シン・レッド・ライン』で映画音楽の天才ハンス・ジマーが作った賛美歌がサンプリングされてます。『シン・レッド・ライン』はアメリカ軍と日本軍で悲惨な戦闘が行われたガダルカナルでは、アメリカの兵士は奥さんから“将校に恋をしました別れてください”と言う手紙をもらうなどしていた。に当時の日本だとそんなアホな手紙は来ないですが、ほとんどの日本兵は補給路を断たれ餓死してました。なんじゃこの映画と思ったのですがテレンス・マリックは人間は愚かだが、自然はそんな愚かな行為をなんとも感じず、今も美しいということを描きたかったんだと思います。ネトウヨが見たらブチ切れそうな映画なんですけど、今作の一曲目のテーマは『シン・レッド・ライン』と同じ、人間ってバカだよねというというカントリー・ソングから始まります。結婚式の日に去って行く花嫁に、花婿は君が去って行く理由はよく分かるよと暖かく見守るのです。二つに分断したアメリカ、エゾラと反対側の人にも君の気持ちもよく分かるということからこのアルバムは始まっているのです。

2.「ハーモニー・ホール」

 

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