松沢呉一のビバノン・ライフ

ヘイトスピーチ規制法はデモには効力を発しない: その運用の難しさ (松沢呉一) [シリーズ ヘイトスピーチ規制法の是非 3]-2,957文字-

なぜヘイトスピーチ規制法は成立しないか

 

vivanon_sentenceまだ予約できるようですので、お早めに。

新大久保 アゲインスト レイシズム vol.3
桜井誠(通名)在特会退会記念 送別会 〜沈む船からネズミが逃げる〜

OPEN 12:30 / START 13:00

予約 ¥1500 / 当日 ¥1800(飲食別)
※ご予約はネイキッドロフト店頭電話(03−3205-1556)16:00〜24:00

2013年に新大久保にて在特会をはじめとする差別集団との戦いを続けてきた反レ イシズムカウンター。2年になろうとする戦いを続けてきたなかで、レイシスト グループを取り巻く環境は大きく変わっていった。
社会的な糾弾をうけながら、断末魔となりつつある在特会の会長桜井誠(通名)か ら離脱。裁判や内紛、そして何よりも世論を敵にまわして、彼ら差別団体は窮地 に追い込まれつつある。

本 イベントは、桜井誠が在特会を退会した真相、そしてその背景にあるものをあらためてまとめるもので、同時に今後のカウンター活動の展望について総括し、 これまでの新大久保も含めたカウンターの第一線に立ってきた人たちとともに、 今後の反レイシズム運動の展望について語り合います。

1.桜井誠、在特会退会の真相
2.レイシストたちの今後の行方(裁判・内紛・世論の現状)
3.反レイシズム陣営は今後どのように闘うか

【出演】高橋直輝(男組)、山口祐二郎(憂国我道会)、松沢呉一、徐泰雄【司会】清義明

では、前回に続いて、この日語ろうと思っていることの続きを書いておきます。あくまで私が語ろうと思っていることであり、私の考えに過ぎないのでお間違えのないよう。

自民党にせよ、野党にせよ、ヘイトスピーチ規制法に賛成できないのは、表現の内容規制は憲法に抵触し、表現の自由を侵害する可能性が高いだけじゃなく、ヘイトスピーチ規制法でデモを規制するのは困難だからです。

自民党としては、オリンピックに向けて、ヘイトデモを放置するわけにはいかず、これをなんとかしたい。ここは本音であり、世間に向けたポーズではありません。オリンピック期間中に、あるいはその前から海外からの客人が増え、海外に向けた報道が増えていく中、ハーケンクロイツを掲げるようなデモを放置するわけにはいかない。東京都としても日本政府としても、北京オリンピックやソチオリンピックの二の舞いは避けたいのは当然かと思います。

換言すれば、ヘイトデモさえなんとかすれば体裁は保てる。嫌韓本がいかに出ていようがそこまで踏み込んだ報道は海外ではなかなかなされないですから。

ところが、街頭のデモに対してヘイトスピーチ規制法はあまり役に立たない。具体的にはヘイトスピーチか否かの判断が困難ということです。法が実際に機能するのかどうかを検証していけばこのことに気づかないではいられないはずです。

たとえば「“死ね”という言葉はヘイトスピーチである」といったようにひとつの言葉をとらえてヘイトスピーチかどうかが判断されるわけではなく、その文脈、状況、発言者の過去や現在までを考慮して判断されることになりますが、そんなことはデモの現場ではできません。

よって、証拠をもとにあとから取り調べをして、書類送検をするかどうかを決定することになります。しかし、これも困難です。

 ヘイトスピーチ規制法はデモには効力を発しない

 

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私はヘイトデモ参加者に殴られたことや蹴られたことがありますが、あれだけ警察が記録用のビデオカメラを回していても、その瞬間は記録されていませんでした。10台のカメラを用意しても、すべての参加者のすべての行動を撮ることはできない。蹴られた時は、機動隊員の一人が目撃していましたが、殴られた時は目撃者もおらず、口の中を切った情況証拠があるだけです。あれだけの機動隊員がいて、周りに何人もいたのに、その瞬間に見える角度にはいませんでした。そんなもんです。

まして怒号が飛び交う中で、誰がなんと言ったのかまで判断できるようにきれいに収録して、個人を特定するためには今の何倍もの機材と人員が必要になります。なにしろ対象は言葉ですから、「いや、そんなことは言ってない」とすっとぼけられ、かつ、他に聞いていた人がいなかったらそれまで。実際に聞き間違いも起き得るのですから、この判断は慎重になされなければならない。

暴行のように、誰もが判断できるように歴然と表れる犯罪ではなく、傷害や器物損壊のようにのちのちまで証拠が残るわけではないのがヘイトスピーチの特性です。

 

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