日本人は定価が好きでチップが苦手-毛から世界を見る 20- (松沢呉一) -3,334文字-
「海外のサーバーであってもわいせつ動画の配信は違法-毛から世界を見る 19」の続きです。
路上でも金は出さない
チップの場合は「皆が見ているところで、そういうことをするのに抵抗がある」「どういうタイミングでいくらくらい出していいのかわからない」ということもあるわけですけど、チップ以外でも似たような例は多数あります。
木野トシキは、エストニアの路上で、ハモニカやトランペットを吹いて小銭稼ぎをやっていますが、それで生活費が捻出できるくらいに皆さん金を出すんですってよ。おそらくヨーロッパはどこでもそうなのでしょう。
私は路上の演奏に金を出すことはほとんどありません。CDなどブツがある場合は金を出しやすいのですが、ただ金を出すのは苦手です。
ブツを買う行為だと、たんなる商行為となって、貸し借りなしで行為が完結できるためだと自分では思っているのですが、コンサートや芝居には金を出すわけで、そちらは定価が決まった入場料であり、投げ銭は定価のないチップだからかもしれない。
※酒のシリーズではないのですが、木野トシキらしさがわかる写真が他にないものですから。「酒癖の悪い人たち」に出した写真とはまた別の場所での様子。この時は自分で持ってきたシェービングクリームでセルフパイ投げをしてました。酔う気満々。そろそろエストニアでもこれをやるはず。
社会運動を支える金
社会運動でも似たような話をよく聞きます。海外では金が集まるのです。
台北のプライド・パレード「台湾同志遊行」が今年も10月に開催されますが、あそこも資金は豊富らしい。もちろん、それだけではないでしょうが、豊富な資金がアジア最大となったプライドパレードを支え、早ければ来年にも同性婚が法律で認められるかもしれない状況を作り出しています。
他ジャンルでも同じです。国内で私に「都市開発とセックスワーク」なんてテーマで講演を依頼してくることはありませんが、台北でセックスワーカーの支援活動をしているCOSWASはアゴアシを負担して私を含めて、日本、韓国から人を呼んでワークショップを開催。金があるからできることです。
その時の金はどっかのファンドに申請を出したと言ってましたが、広いオフィスをふたつ借り、複数の専従がいますから、日常的な経費も相当かかっています。
日本とは決定的にそこが違う。日本には足を引っ張る人は多くても、金を出す人が少ない。足を引っ張る人が多いことと、金を出す人が少ないことはおそらくリンクをしています。
税金の優遇措置がないためだと昔はよく言われていましたが、NPO制度ができて、寄付をしやすくなって改善されたところもあるでしょうけど、なお諸外国には及ばない。
新聞広告を出せるくらいにSEALDsにはカンパが集まりましたが、異例でしょう。それだけ大きなテーマだったということもありますが、もしかすると、少しは日本も変わってきているんでしょうかね。
ちなみに私は、今は出そうにも金の余裕がないですが、金をいっぱい稼いでいた若い頃は、さまざまな運動体に毎月金を出してました。しかし、機関誌を購読するとか、会員になるなどの方法で金を出すことが多くて、ただカンパするのはやっぱり苦手でした。私も定価が好きな日本人です。
※酔っ払って床に倒れこみ、子どもに箸で突かれる木野トシキ
スパイト行動とチップ
では、なぜ日本人はチップやカンパが苦手で、足を引っ張ることが得意なのでしょう。
これについては、先日、木野トシキがブログで紹介していたスパイト行動が参考になります。詳しくは「日本人はいじわるがお好き?!」プロジェクト(pdf)を参照のこと。
スパイト(spite)は意地悪の意味。私もまだ正確に理解できているわけではないですが、CAM4におけるチップと同じような実験がさまざまなされています。
ここに書かれている実験をCAM4方式のライブチャットに当てはめると以下のようになろうかと思います。
誰か一人が千円を出せば、ライブチャットに出ている女の子がおっぱいを見せるとします。
どうせだったら、他の人が出してくれれば、自分はタダで見られるわけです。しかし、誰も出さない。自分は千円を出してもいいと思うのですが、複数の視聴者がいる中で、自分が千円出すこと自体にためらいが生じます。CAM4では誰がいくら出したのかわかりますから。椅子席のあるコンサートで一人だけ立って踊ることができないのと同じ。
その気恥ずかしさだけじゃなく、自分が出すことによって、タダでそれを見ることになる人たちがいることが許せない。そのため、自分も出し渋る。結果、誰も金を出さず、おっぱいを誰も見られない。
※エロ画像が出てきますので、18歳以上の方のみ先にお進みください。
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