『親なるもの 断崖』は道徳派のプロパガンダ漫画である—「ポスト真実」はとっくに進行していた 2-(松沢呉一) -2,541文字-
「児童陵辱ポルノ『親なるもの 断崖』のダウンロード販売再開—「ポスト真実」はとっくに進行していた 1」の続きです。
『親なるもの 断崖』に見る絶望
「『親なるもの 断崖』はポルノである」シリーズでは、できるだけ国会図書館の資料を使うようにし、リンクもしていました。私の書いていることが信用できないなら、ソースを確認すればいい。国会図書館がネットで公開している資料だったらタダで誰でもアクセスが可能です。だったら、目を通しましょう。
その辺の図書館にあるものと違い、記憶が薄れたり、道徳で改竄されない段階での資料ですから、より正確なことがわかります。その時代から道徳運動をしていた人たちの書いたものは、そういうものとして読むべきですけど、それにしたって読み取れるものはあります。
前回、その一例を出したように、そういった歴史の蓄積を無視して、『親なるもの 断崖』という呆れた漫画が史実だと信じてしまって、間違った認識をはっちゃきに拡散している人たちがいます。そのくらいにリテラシーが欠落しています。在日特権なるものを信じてしまう在特会の支持者と同レベル。
小中学生なら仕方がないとして、大の大人が信じる。しかも、私の周りでもそういう人が出てしまったことに絶望します。「おまえが書いてきたことは信用できないが、漫画は信用する」と宣言されたようなものです。
「幕西遊廓について調べる」は「ビバノン」の中ではそこそこのPVとは言え、有料ブログのPVはそんなにたいした数字にはならない。それでも「幕西遊廓」をググるとトップになるくらいに、この漫画を検証したサイトが少ないってことかと思いますし、「正確なことを知ろう」とする人が少ないのだと思います。
歴史を知らず、知ろうともしない人々を利用してゼニ儲けをしてきたのが『親なるもの 断崖』であり、そういう誤解をされることを前提にしている。こうなると、もはやデマを拡散する漫画だとしたところでそうは間違っていないでしょう。人を騙して商売をしているのです。
しかし、これは今に始まったことではありません。
「ポスト真実」が進行していたジャンル
「親なるもの 断崖はポルノである」シリーズを読んでいただくとご理解いただけましょうが、私はイライラしながら書いていました。こんなもんを描いた漫画家にも、出版する版元にも、解説を書いた郷土史家とやらにもイライラしています。
この人たちはデタラメで十分な金を得ています。解説の原稿料はたいしたことないでしょうけど、その検証はもっと金にならない。
デマと検証で一般に見られる不均衡です。デマは思いつきなのに対して、検証は事実に基づく必要があるので、調べるのに手間がかかるのです。
「ピバノンライフ」の場合、1本当たりいくらの原稿料という計算が難しいですが、新規購読者がこれによって増えることはほとんど期待できない。シリーズすべて合わせても1人か2人といった数字だと思われ、ここまでゼロだった可能性もあり得ます。
できることなら、こんな辛気くさいことはやりたくない。多くは今まで書いてきたことの焼き直しとは言え、幕西遊廓については初めて調べましたし、過去に調べていることでも、改めて資料を読み直すには相当の時間がかかります。
それでもネットを見る限り、批判している人が見当たらないので、私がやるしかないかと諦めたわけです。
ここもイライラするところです。
勝てないことは明らかでも書いていくしかない
こういうものを書いていると、時々遊廓についての問い合わせやコメント依頼があります。内容次第では協力しますが、既存のイメージをなぞるものを求めているだけであれば私が協力するはずがない。頼み事は、相手が何を書いているかくらい確認してからにして欲しい。
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