松沢呉一のビバノン・ライフ

トラップによるカラスの捕殺は効果がないらしい—勘で読んだ松原始著『カラスの教科書』(上)(松沢呉一)-3,196文字-

竹内久美子のデタラメ」をミニコミ「ショートカット」で発表した際には、第二部がついてました。この時に書き下ろしたもので、もう少し広い視点から、竹内久美子の問題点を論じたものです。

竹内久美子の論は「そんな解釈はありえない」というものだけでなく、「そう言えるのだとしても、こうも言えるよね」という複数の解釈の中から恣意的に選び取っているものが多くて、まったく逆の論も導くことも可能であり、「科学」を適当に切り刻んで利用しているだけってことを指摘したものです。

それを出そうかと思って、その前振りになる文章を書いていたら、いつものように長くなってしまい、かつ、竹内久美子のことはこのタイミングで出すより、皆が忘れた頃に出した方がいいかと思い直しました。批判はブームの中でやるより、地味に継続していった方がいいし、どうせだったら最近のものも読んで批判するかと。面倒なのでやらないかもしれないけれど、とりあえずペンディングとしました。

でも、もう前振りは書いてしまったので、その部分だけ出しておくことにしました。研究者の知識、知見には教えられることが多いって内容です。竹内久美子と大違い。

 

 

カラスの本は面白い

 

vivanon_sentence若い頃ほどではないですが、「竹内久美子のデタラメ」に書いたように、暇つぶしに生物関連の本はよく読みます。知ったところで役に立つことはあまりないですが、なにかしら知らないことを知ることができて満足度が高いのです。電車の中で読むには格好のジャンルだと思います。

去年読んだ中で、もっとも面白かった生物関連の本は松原始著『カラスの教科書』でありました。カラス自体が面白いですから、その研究者の本が面白くないわけがない。

この本を読んで、「あー、そうか」と気づいた点が多々ありました。全部紹介しているとキリがないので、その中でもっとも目からウロコだった、東京都がカラス対策としてやっているトラップによる捕殺について見ていこうと思います。以下の話が面白かったら、『カラスの教科書』を読むとよい。いろんなカラスの話が出ています。

公園を歩いているとたまにカラス用のトラップを見かけることがあって、仕組みはシンプルながら、ヒマラヤで雪男を捕まえられるくらいにサイズが大きくて、カラスごときを捕まえるわりには大げさです。

以下はどっかの公園で撮ったものです。

 

 

 

この写真では仕組みがよくわからんでしょう。

以下は東京都の報告書からの転載です。

 

 

 

一人暮らしのワンルームとしては悪くない。天井が高く、日当りがよく、公園ですから環境は抜群です。

サイズが全然違いますが、仕組みは、上部から入るタイプのネズミ捕りと似たようなものです。この中に肉が吊るしてあります。天井の入口の内側に針金が多数下がっていて、中に入ることはできるのですが、羽ばたかないと下から上に飛べないため、針金が邪魔をして一度入ると出るのは困難。カラスが賢いと言っても、これに騙される程度の賢さ。

実際にカラスが捕まっているのも見ましたが、たしか三羽くらいしか入ってませんでした。餌につられて先行隊の数羽が中に入り、肉を食って、「さっ、帰るか」と思ったら出られない。そうすっと、カラスはギャーギャー騒ぎます。その声と様子で危険であることを察知して、他のカラスは入ってこない。そのくらいには賢い。

たぶん一度に多数を捕獲できると予想して、あの大きさにしたのでしょうけど、そうは捕まえられないのだと思います。大量にカラスがいて、先行隊だけで数十といった単位が入るようなケースもあるかもしれないけど、たいていは数羽でおしまい。

事実、その近くで眺めているのがいるんですよ。「あいつら、バッカでー」と笑っているのか、「兄弟を助ける方法はないもんか」と考え込んでいるのか、「捕まらずに御馳走を食えないか」となお狙っているのかわからないですけど、たぶんスキあらばなお肉を狙っているのだと思います。

私もそいつらと一緒に「あの肉をカラスに食わせるのはもったいない。持って帰って焼肉にしたい。でも、あの中に入って出られなくなったら恥ずかしいな。檻からは出られないけど、新聞やテレビに出られるってオチか」と思って眺めてました。脂身だったと思うので、そんなにうまそうではなかったですが。

※同じ著者で『カラスの補習授業』って本も出ているのですね。たまたま今別の人が書いたカラスの本を読んでいるところなので、また来年くらいでいいや。腐る内容ではないですし。

 

 

トラップには意味がないらしい

 

vivanon_sentenceそれでも少しは効果があるのだろうと私はこれを読むまで思ってました。東京都も報告書でこう言ってます。

 

 

カラスの捕獲には、安全で効果の高い方法として、トラップによる捕獲が有効です。都市部で 1 年間に数百羽のカラスを捕獲した実例もあります。

 

 

万単位のカラスの中の数百羽ですから、たいしたことはないですが、現に数百羽は減らしていると思ってました。単純計算で、十年続ければ数千羽減ります。そこまでアホではなかったですが、効果がまったくない可能性について考えてませんでした。

カラスは学習するので、一度仕掛けた場所では以降捕まらない可能性もあるのですが、もっと根本的な話です。

 

 

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