小説の元になった実話を確認—欲情部落を訪ねて[2]-[ビバノン循環湯 404] (松沢呉一) -3,751文字-
「国立の昔話-欲情部落を訪ねて[1]」の続きです。
欲情部落はここではないのか?
神社の人はこう言う。
「ここは天満宮で、国立市内に八幡はひとつもない。隣の国分寺が八幡様なんですよ。あちらはいくつかあるので、国分寺じゃないですか」
私は半ば諦めながら、こう聞いた。
「この本の中に、境内に防空壕があったという話が出てくるんですよ」
頭の足りない若い男が防空壕に住み着いていて、まだ戦争が終わったことを知らずに、「空襲だ」と騒ぐ。こんな田舎町は空襲する意味がなかっただろうが、立川の飛行場があったので、B29が飛来するのを見ることもあったかと思われる。
その男が色気づいて、近隣の女たちが怖がるのだが、近所の一人暮らしの老婆が結婚を申し出て丸く治まるという話。
「それも聞いたことがないですが、防空壕はありましたよ。この辺では、ハケに横穴を掘れば防空壕になるんです」
ハケというのは崖線のこと。武蔵野台地には立川崖線と国分寺崖線があって、数メートルの段差の崖が続いている。この境内の中にもハケがある。
「ハケは国分寺の神社にもありますから、そっちじゃないかな。この本にはT市から二里ってあるでしょ。ここは昔から立川まで一里と言われていたんですよ。原田先生がそこを間違えると思えない」
「でも、矢川は国分寺にはないですよね」
「場所が特定できないようにしているんじゃないですか。国分寺も湧水が豊富で川はたくさんあります」
「国分寺なのか。闘鶏が盛んだったとあるんですけど、聞いたことありますか」
「いや、聞いたことがないですね」
「境内に鶏がいっぱいいるので、てっきり闘鶏の名残かと思いました」
パッと見ても数十という単位の鶏が放し飼いになっている。
「あれは獅子舞の飾りにする羽をとるために飼っていたんですけど、獅子舞の飾りにするには羽の長さが足りないので、放し飼いにしているうちに増えたんですよ」
防空壕以外、手がかりは何もなさそうだ。
これもそれも本当の話です
さらに神社の人は本を読んでいる。邪魔するのは悪いので、私は話しかけず、ボーッと立っていたのだが、だんだん表情が真剣になってきた。
周りには誰もいないのだが、これ以降は小声になる。
「うーん、ここは本当の話です」
該当箇所を開いて見せてくれた。
「××の××は××と××が××していたんですよ」
今現在も生きている人たち、あるいはその子どもの代がこの地にいるので、伏字でご容赦いただきたい。
「えー、だったら、やっぱりここですかね」
「他の場所でも似たような話があったかもしれないけど。あと、×××が出てきますね」
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