女性医師に脳を手術してもらえたらラッキー—西川史子の発言を検証する[中]-(松沢呉一)-2,813文字-
「問題提起はよかったのだが—西川史子の発言を検証する[上]」の続きです。
外科医の中での偏在
今回会った医師は、今は違うのですが、長らく大学病院で脳神経外科医をやっていました。脳神経外科の女性医師は本当に少なくて、以前、大学病院勤務だった頃に、一度だけ4年下の女性医師がいたそうです。
「彼女に関して言えば、女性であることの問題は一切ありませんでしたね」
しかし、彼が同僚として出会った女性医師のはこの彼女だけ。
外科系の中でも、女性は偏りが激しい。脳神経外科は需要があるのに数が少なくて、現状、男女合わせて医師100人のうちの2人か3人しかいない。そのうち女性医師は20分の1くらい。脳血栓で20回くらいいろんな病院で手術してやっと出会える程度。退院した帰りに宝くじを買うと当たるかも。
西川史子の発言からすると、腕力の問題で女性は外科を避けるみたいですが、これは完全な間違い。脳神経外科に腕力は必要がありませんけど、極々少ない。
西川史子自身、医師ですから、女性医師自身が、こういうイメージで診療科を決定している可能性はゼロではないのかもしれないですが、数字に照らすと、可能性はなさそうです。
美容整形が「整形」という言葉を使っているため、どっちがどうなのかすぐにわからなくなりますが、整形外科(背骨、骨盤、四肢がおもな治療対象。股関節はこっち)の方が形成外科(体の外面の治療。火傷の痕だったりアザだったり)よりも女性医師率が高いですから、やはり腕力は関係がないし、イメージで決定しているのでもなさそうです。
力が必要になるのだとしても、外科医がたった一人で診察したり、手術をするわけではなく、大学病院のような大きな病院ではどこも看護助手がいますから、ベッドや機器を移動したり、患者を抱え上げたりは男性助手がやるってもんです。看護師ができることは看護師がやるんですから、医師はメスや鉗子を手にしながら立ち仕事をする体力があれば十分です。マクドナルドでバイトができる体力があればいい。夜勤もあるので、24時間営業のマクドナルド。
男性医師に比べ、女性医師率が高いのは乳腺外科くらい。これは「女性だから」ということとともに、それほど複雑な手術じゃないからでしょうか。なんとなくのイメージで語ってますが、女性医師は小児科は多いのに、小児外科はやっぱり男性医師より率が少ないことからして、面倒なタイプの外科を避けているとしか思えません。この場合の「面倒」というのは「手術時間が長い」「急患が多い」ということです。
※月刊「外科」くらいはあるんだろうと思ってましたが、脳神経外科だけでも複数専門雑誌があると教えられました。月刊「脳神経外科」は2,008円。印刷費用はかからないとは言え、また、定価が高いとは言え、読む人が少ないのに成立しているのは、脳神経外科医の購入率が高いからじゃないですかね。
女性医師が外科医を避ける理由
なんで女性医師は外科を避けるのかと言えば「大変だから」「面倒だから」。こう書くと頭が悪そうで、やる気もなさそうですけど、ホントに大変なんです。
もっとも大変なのは夜勤です。何もなければ寝てていいのですが、だいたいの大学病院は救急病院に指定されていますから連日急患が来ます。他の科の医者も当番が回ってくるのですが、外科は即手術ということもあります。とくに意識不明で運ばれてくる脳外科担当の急患は即手術が多い。
朝の交替時間が来たら、それ以上延長することは多くの大学病院ではないので、徹夜のまま勤務することはないらしいのですけど、手術によっては長引く。とくに脳神経外科は長くなりやすい。素人のイメージでもそんな気がします。その点、乳腺外科の急患はあんまりいないかと思います。整形外科も急患はあまりいないでしょう。
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