風俗嬢であることを知っている家族や彼氏—要友紀子著『風俗嬢意識調査』の注目すべき数字[下][ビバノン循環湯 458] (松沢呉一)-3,791文字-
「仕事を始める前と後で変わった認識—要友紀子著『風俗嬢意識調査』の注目すべき数字[上]」の続きです。
説得力のある調査主体
要友紀子の調査を実施する前にも相談に乗ったのだが、あとになってみると、反省点は多々ある。「未婚か既婚か」「子どもがいるか否か」「親と同居か否か」「前職」「兼業の場合は、その職種」「現実にどんなサービスをどの程度の頻度でやっているか」といった質問を入れた方がよかった。戦後間もない頃の赤線の調査や街娼の調査では、「未婚か既婚か」「子どもがいるか否か」といった項目が入っていて、それとの比較ができやすくなったのと、他の回答を分析する際に役立ったと思えるからだ。
質問が多いと時間がかかってしまって嫌がられることになるので、質問項目は増やしにくかったという事情があるのだが、「嫌な客」「嫌なサービス」を聞くなら「好きな客」「好きなサービス」も聞くべきであり、それがないがために、これを見た人が、仕事の嫌な面ばかりが強調されているようにとらえてしまうのではないかとの危惧もある。なにしろ、この世の中、なんとしても否定的にとらえたくてしょうがない人たちがゴロゴロしているのだ。
「ああすればもっとよかったのに」との思いはあれど、この調査が、既存の風俗嬢イメージをより現実に近づけ、虚構の上で議論が始まるようなこれまでの愚行を少しでも減らすことは間違いない。
私自身、かつてやったアンケート調査をより大規模な形でやるべきと主張してきたのだが、それが要友紀子の手によってなされたことは、いくつもの点でよかったと感じている。
このことは今までいくつかの文章で語ってきたことだが、はっきり私の書くことは説得力がない。風俗ライターであることを理由として、私の書くものを軽視する女性弁護士の話を現に聞いているように、風俗ライターというのは、風俗業界の代弁者としか思われていないところがある。ほとんどの風俗ライターは、これまで風俗産業の是非を堂々と語ろうともしてこなかったのもまた事実であり、今では少なくなったが、ライターや編集者、カメラマンが、風俗店からお車代をもらって原稿を書くのが当たり前だった時代もある。
これでは業界の代弁者と思われてもしょうがないのだが、そうだとしても、その内容を検討くらいすればいいのに、その能力まではないので、風俗ライターであるという一点のみで、その発言を検討しようともしない人たちが少なくない現実を前にした時、その属性で封殺されにくい立場の人間がこういった調査を手掛けた方がいいと感じていた。
調査者の属性だけで批判する差別者どもも黙るしかない
また、どういうもんだか、今でも、「男=悪/女=善」という西部劇的な男女観を抱いている人たちがいて、こういう人たちは、男がやったというだけで、見ようともしない。より多くの人たちに見てもらうためにも、要友紀子が実施したことには意義がある。
『買春に対する男性意識調査』という調査があるが(「『買春に対する男性意識調査』批判」参照)、あの調査を手掛けた人々もまた風俗産業のなんたるかを理解しておらず、キャバクラに行く行為までを「買春」としている。女性が接客する飲み屋に行くのも買春だとする定義があってもいいかもしれないが、だったら、銀座や六本木のクラブに行くのはなぜ買春ではないのか。女将のいる居酒屋は? ウェイトレスのいる喫茶店は?
札幌のように、地域によっては、東京で言う「おさわりパブ」「セクキャバ」の類いをキャバクラと呼ぶところもあるが、それにしたって射精を伴うものでなく、キャバクラに行ったことのある人に、コンドームを使ったか否かを聞いてどうするつもりだろう。
キャバクラがどんなものなのかをあの調査を手掛けた人たちの誰一人として把握しておらず、無知であることの自覚もないまま調査をして、なんの意味もない数字を出してやがる。彼らにとっては、男らの行動を否定することのみが目的であり、実態はどうでもいいのだし、事実、その意図のもとでの分析しかなされていない。調査で明らかに出来たのはあの調査をした人たちの無知と傲慢さだけだったというお粗末。
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