松沢呉一のビバノン・ライフ

出張先でのセックスで起きた事故は労災の対象か?—懲戒の基準[8]-(松沢呉一)

職場の設備・備品を私用で使うことの処分—懲戒の基準[7]」の続きです。

このシリーズは「ネトウヨ春(夏)のBAN祭りからスピンアウトしたものなので、図版がない時は祭りの写真を使っています。

 

 

 

 出張先でセックスしていて事故ったら労災の対象になるか

 

vivanon_sentenceずいぶん前ですけど、メルマガで、「出張先でセックスをしている時の事故について労災が認められるか否か」という例を取り上げたことがありました。オーストラリアで裁判になったものです。

メルマガは保存されていない号があって、当該記事も見当たらないのですが、この裁判自体はこちらで取り上げられています。

 

訴えた女性が事故にあったのは2007年のこと。報道によると、男性とベッドイン中に部屋の照明器具が落下して鼻と口にけがを負った。女性は労災を申請したが労働当局が却下したため、裁判に持ち込んだという。2012年に連邦裁が女性の訴えを認めたが当局が上訴、行政控訴裁は、出張中は原則的に就業期間内と認める一方で「性行為の時間は含まれない」と一転、女性敗訴の判決となった。最高裁は2013年10月30日、この判決を支持したため確定した。

 

また、こちらの記事によると、一度は労災が認められて、それが取り消しにされたために訴訟になった模様。

私が見たのはこの記事ではなく、その前の判決時のものだったんじゃなかろうか。詳しい解説のないニュース記事だったかと思いますが、私はえらくこれに興味を抱いてしまいました。

「相手の男は誰だったんだろう」「どんだけ激しいセックスをしたんだろう」「これで裁判を起こすのもすごいな」というところにも関心を抱きつつ、「公私」の境界を見定めるのに大変いい事例だったからです。労務関係に関心のある世界中の人たちがこの裁判に注目したはずです。世界が注目するセックス。

出張先の私的時間はふだんの生活の私的時間と同じ扱いですから、何をしたってよくて、オナニーはもちろん、セックスをしても懲戒対象にはならない。しかし、私的行為なのだから、労災の対象ではないというのが一般的な感覚であり、この感覚はある程度正しい。

しかし、ひとたびは労災が認められ、なおかつ一審では原告が勝っているように、議論の余地は大いにあって、国によっては同じ条件でも労災が認められることもありそうだし、日本でも条件次第では労災が認められる余地が少しはありそうです。これで訴える人は日本にはいそうにないですが。

 

 

労災の対象になるケースとならないケースの線引き

 

vivanon_sentence会社に命じられなければその地に行くことはなく、そのホテルでセックスすることもなかったわけですから、出張とセックスの事故との間に因果関係が存在しています。まずこれが前提となります。

出張中でも個人の時間はあり、その時間に個人の行動は許され、それに伴う事故はすべて出張があってのことなので、日本でも、出張先の全時間は労災の対象になり得ます。

ただし、仕事を終えたあとの食事で食中毒になった、仕事を終えたあと交通事故に遭った、ホテルの風呂で足をすべらせて転んで負傷した、ホテルが火災になって火傷したなど、業務を遂行するために通常伴う行為までが労災の対象です。業務の延長として相手を接待するために酒を飲んだ際の事故までは労災の対象になり得るとして、仕事のあとで一人で酒を飲みに行き、飲み過ぎて路上で寝てしまい、バイクに轢かれて負傷したなんて行為は対象外です。

 

 

 

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