なぜガイドラインの対象外にセクハラを認めたのか—京都造形大学に対する訴訟[4]-(松沢呉一)
「差別意識に基づく不快感をも肯定するセクハラ定義—京都造形大学に対する訴訟[3]」の続きです。
このシリーズは当初3回分書いたところで終わるつもりで、訴訟そのものには触れない予定だったのですが、そうもいかなくなりました。
文中に書いてあるように、私の理解できてなかったことを教えられて、追記をしたのですが、追記が長くなりすぎたので、書き直しました。タイトルも変更しました。京都造形大学はセクハラだと認めたわけではなく、対策が不充分であったと認めただけかもしれないのですが、セクハラではないのであれば対策が不充分ということにはならないわけですから、このように表現しました(セクハラではないけれども、原告が不快になったのであれば、対策が必要だったということなのかもしれないのですが)。
そもそも原告はガイドラインに定められた学生ではないのでは?
では、どういう規程、どういう定義であれば「不当なセクハラ認定」を避けられるのかを考えてみましょう。
だいたいどこの大学でも、ハラスメントの規程には「学生」の範囲、定義が示されていて、学籍のない一般の人たちを対象にした公開講座の聴講生は「学生」ではありません。
前に説明しているように、防止規程は厳密な定義が必ずしも必要とは限りません。その内容に反したからと言ってすぐさまハラスメントと認定され、すぐさま行為者の懲戒等の処分が必要ということにならないのですが、防止規程に反した場合は、男女雇用機会均等法の定めから、防止する責任のある学校に瑕疵があったことになって、学校が対応する必要がありますから、範囲については明確にしておくのは当然です。
セクハラか否かが論点なのではなくて、セクハラに対する防止策を規程通りに講じていたのか否かが論点となるわけですが、この範囲に留めておけば、公開講座の聴講生は対象ではありません。セクハラなんてものではなく、ただ講義内容が求めていたものとは違うというクレームとして対処すればいいだけ。
では、京都造形大学のガイドラインはどうなっているのでしょうか。
以下は「京都造形芸術大学ハラスメント防止に関するガイドライン」より。
3.ガイドラインの対象範囲
このガイドラインは、本学の構成員である、本学学生(本学で教育を受ける関係にあるすべての者)及び教職員(常勤・非常勤を問わず)のすべてを対象とします。 但し、本学を卒業・退学などで学籍を失って後、原則として1年以内に限り、在学中または在職中にうけた被害についての訴えを「人間関係委員会」に申し出ることがで きます。
藝術学舎のサイトには「藝術学舎」は「一般公開講座の総称」とあって、このガイドラインに含まれないと思っていたのですが、Facebookで、「藝術学舎」の講師をしたことがある川崎弘二さんから、「藝術学舎」に出席することで、通信教育部の単位が取得できることを教えてもらいました。
たしかに大学のサイトには「京都造形芸術大学通信教育部の正科の授業科目」となっています。
上のガイドラインでは、わかりやすく「学生とは〜」という書き方をしていないですが、一般的に「学生」は学籍のある者を指し、ここでも「本学学生」は学籍がある者と読めますので、「藝術学舎」は学生と一般聴講者とが共存している場ということになります。原告も通信教育部を卒業していますが、卒業生が「在学中に受けた被害」は、「学籍がある時に受けた被害」の意味ですから、卒業していることは、一般聴講生として参加したことに影響しないでしょう。つまりはただの客です。
一般の大学の授業でも、教員によっては、外部からの聴講生、つまりはモグリの学生を入れてくれる授業があって、私も学生時代、また、卒業後も他大学の授業に出ていたことがありましたが、その場合は学生としての保護は得られない。それで問題なし。
学校側が、なぜ原告に対して、このガイドラインの対象ではないと説明しなかったのかがわからない。あるいは説明したのに原告が理解しなかったのでありましょうか。
※「藝術学舎」のサイトより
救済すべき人々に範囲を制限するのは当然のこと
学籍がある学生と、それ以外との間で線引きをするのはただクレーマーを避けるという意味ではなく、合理的な理由があります。
男女雇用機会均等法の定めは職場に限定されていて、セクハラの民事裁判でも、知る限りすべては職場か学校です。教職員間、学生間、教職員と学生間であり、教職員であれ、学生であれ、離脱が容易ではないという条件があります。
学生であれば「評価」「単位」「卒業」「就職」というものを人質にとられて、性的行為を強要されることを防ぐのがセクハラという考え方が出てきた理由であり、それがルール化した理由なのですから、その条件がない場面まで拡大する必要性はなく、また、拡大してはならない。
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