松沢呉一のビバノン・ライフ

学問における不正は倫理観・知力・信仰・国籍とは無関係—カンニングの仕組み[2]-(松沢呉一)

幻の科学技術創造立国と不正を禁じる制度の整備—カンニングの仕組み[1]」の続きです。

 

 

 

日本の大学は中国人留学生を獲得するチャンス!!

 

vivanon_sentence米国では学部生の不正に対しても厳しく、不正一回で退学処分になるとも言われています。

以下はウィキペィアの「学業不正」の項。

 

 

学業不正に対する処分は、年齢と違反内容による。高校では、カンニングに対する標準的な処分は落第である。大学では、除籍退学になる(例えば、バージニア大学では、倫理憲章(honor code)違反は退学より軽い処分がない)。実例は多くはないが、大学や大学院時代の盗用がばれて、大学教授が懲戒解雇されたケースもある。学業不正では、不正の主犯だけでなく、関係者全員が処分される。

 

 

たしかにバージニア大学の倫理憲章には永久追放となっていて、監査委員会ってところが厳しく取り締まっているようですが、現実にはつねに追放ということではなさそうで、厳しすぎる措置に対しては内部からの批判もあるようです。

ここにわざわざ出しているくらいで、とくにバージニア大学は厳しくて、いくつかの大学を見て回ったところ、学部生の不正は、停学とコミュニティ・サービスの従事となっていたりします。そういった大学でも二度、三度とやれば退学でしょうけど、学位に関わる論文についてはまた別規程があるので、しばしば言われる「不正一回で退学」というのは一部の大学と学位に関する論文についての不正ではなかろうか。

このウィキペィアの「学業不正」の項はすごく面白くて、ここからさまざま辿って調べているところです。ここから得たことは追々紹介していくとして、研究活動の不正や学業の不正が大きな問題にされるようになったのは米国でも2000年代になってからのようで、とくに日本が出遅れたってわけではないようです。

米国事情を調べていたら、この春から、不正入試で持ち切りなんですね。

 

2019年5月11日付・共同通信

 

7億円かあ。

 

 

倫理観と不正は無関係

 

vivanon_sentence中国人留学生の不正については、数年前に「中国人留学生8000人が米大学を退学に?」なんて記事が「ニューズウィーク日本版」等に出ています。はっきりしているのは3年間に1,657人で、8,000人は「そういう説もある」という程度の数字です。確かな数字として出ている1,657人も不正行為や成績不振」とあって、成績不振で退学になるのは留学生にはつきもの。

しかし、慎重に読まないと、いかにも中国人たちは金にあかして入学をして、大学に入ってからも不正を繰り返し、また、授業についていけずに退学になっているように見えて、さも「中国人は倫理観がない」と思ってしまいましょう。

さっそくこれについてはWikipediaの「学業不正」が役に立ちます。

 

カンニングは道徳観が発達すれば減ると期待されるかもしれないが、学生の道徳試験(morality test)の成績とカンニング率は相関性がない。

数千人の大学生を対象にしたドイツの調査では、勉強がひどく遅れると、学業不正をする頻度が高くなる。勉強しないから遅れるのだが、その遅れを取り戻そうと考える戦略がカンニングなのだとある

人種、国籍、社会階級は、学業不正と相関性がほとんどない。信心深さもほとんど相関性がない。異なる宗教間で調査した結果、宗派もほとんど相関性がない。ただ、ユダヤ人は他の宗教人に比べカンニングをしない傾向がある

米国の学業不正に強い相関がある要因は言語である。英語を第二言語とする学生は学業不正の頻度が高い。面倒だから自分の言葉で書き直したくない、言い換える技術が下手なので言い替えない。カリフォルニア大学は外国人学生(International student)が学生総数の10%を占めるが、その10%の外国人学生が大学の学業不正全体の47%を引き起こしている

 

倫理観と学業上の不正とは無関係というのが定説のようです。しかし、そのような結論を導いている調査や実験はカンニングについてのものです。よって、ここに書かれていることは、不正のすべてに適用できることではないのですけど、他の不正を含めても人種や国籍、知力、信仰などとはあまり関係がなさそうです。立派な大学の先生方でも不正をやって滅びていっているように、知力は関係がないことはわかるとして、倫理観もあまり関係がない。なぜユダヤ人だけがカンニングをしない率が高いのかは不明です。

 

 

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