時制が「今現在」しかなくなる—メディアをめぐる不可解な現実[4]-(松沢呉一)
「消えているのは歴史だけではない—メディアをめぐる不可解な現実[3]」の続きです。
「今現在」が強化される環境では過去は偽物になる
そのテレビ局員はこう言います。
「僕も間違いなくインターネットの影響だと思います」
インターネットの影響が出ていないはずはない。
インターネットはリアルタイムであることに絶対的な価値があります。必要な時制は「今現在」だけ。「ビバノンライフ」のどこかに書いたかもしれないですが、そのことを実感するのはCAM4のようなエロ系生中継です。
CAM4を観ている人はおわかりのように、ここでは録画ものは嫌われます。DVDやよそのエロ中継サイトで録画したものを流す人がいて、すぐさまコメント欄で「フェイクじゃね?」という指摘がなされ、「指2本」「指3本」というクリエストが書き込まれます。出ている人がそれに反応しないとフェイク決定で、「これはフェイクだ」と観ている人たちに警告されます。
生の証明が「指2本」「指3本」といったものですが、これ自体が面倒なので、画面の端や後ろの壁に時計を出しておく人もいます。本物の証明。
おかしな話で、録画ものだから偽物ってことはなく、今まで、そして今でも皆さんが楽しんでいるポルノは偽物だったのかって話になります。実際、それらは多くの場合、演出する人がいましたから、芝居でしかないとも言えますが、それよりなにより「今現在」という時制の中では、過去のものというだけで価値が減ずるのです。まったく価値がなくなると言ってもいい。
どんなに美男美女で、どんなにエロいことをやっていても、録画されたものは騙された感が出てきてしまう。私もそうです。世代に関係なく、この環境にいると、誰もがそうなります。
※指を出しているところを探そうと思って、ひさびさにCAM4を観たら、面白くて3時間くらい観続けてしまい、結局、指を出しているところに出くわさず。あれは中継が始まってすぐですから、探そうと思ってもなかなか探せない。このSSは誰もおらず、時折猫が横切るだけの中継。こういうのも観てしまうんですよね。「どうしたんだろう。宅急便が届いたのか? それにしては長い。寝てしまったのか?」と。なぜそうも気になるのかと言えば「今現在」だからです。もし強盗に襲われたんだったら、フランスの警察に連絡しなくては(このアカウントはフランス人)。しばしばそういうものですが、このまま何も起こらずに中継は切れました。
インターネットがすべてのメディアを変えつつある
「今現在」という感覚がインターネットでは強く、「今現在」が猛スピードで流れていくため、あっという間に消費されます。間違いがあってもそのまま流れ、情報が訂正される時には次の「今現在」になっているので、誰も興味を抱かない。
「今現在」が魅力的なのは当然であって、この時間軸は世界共通です。国籍、民族、言語を問わず、確実に世界がつながれる絶対的な基準が「今現在」です。だから私は先月から毎日香港の中継を観続けています。見逃したこと、確認したいことがあった場合はアーカイブを探すこともありますが、どうしても気になるのは「今現在」です。
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