松沢呉一のビバノン・ライフ

自分がわかっていることを他人がわかっていないことに気づきにくい—包茎復元計画[10]-(松沢呉一)

包茎復元のメリットは中学生のような敏感さが戻ってくること(かも)—包茎復元計画[9]」の続きですが、内容は「映画「童貞。をプロデュース」の件—包茎復元計画[7]」に関連しています。

 

 

 

他人が何をわかってないのかを知ることは難しい

 

vivanon_sentence猫町倶楽部での質問[1]/M女は本にならないの?—『マゾヒストたち』(13)」で「Sの女とMの男の関係」と「Sの男とMの女の関係」は性別が違うだけではなく、その位置づけが違うということがやっとわかったというご意見をいただきました。お役に立ててよかった。

マゾヒストたち』をよくよく読むとわかるかもしれないですけど、改めて説明をしないとわからん人はいるでしょう。前提としてあまりに当たり前のことになっているため、私もわからないことを想像できておらず、猫町倶楽部での質問によってやっと気づけた次第。

SとMについての説明はさまざまな人がやっていますが、私に限らず、男と女の社会的な位置づけにからめてこのことを説明してきた人ってあんまりいないのかもしれない。

こういうことはいろんな局面で起きていて、相手がわかっていないことがわかっていれば説明することができますが、相手も自分がわかっていないことがわかっていないと、「ここがわかりません」と言えないので、どこまでも理解できていないまま進行して、時に大きなトラブルに発展します。

猫町倶楽部での私のトークパートは、進行役をつけて欲しいと事前にお願いしました。自分がわかっていることを他人もわかっていることとして暴走しがちなので、わからないところを聞いて欲しかったのです。私がわかっていることを他人がわかっていないことを私はわかっていない場合があることを私はわかっているためです。ああ、面倒臭い。「自分がわかっていることを他人がわかっていないことがわからない状態」といちいち説明するのは煩雑なので、なんか用語が欲しいっす。

当日は、SMについて詳しい女性二人が進行役、ツッコミ役としてついてくれ、このうちの一人はSMクラブで女王様をやっていたことがありますので、業界のことにも詳しい。しかし、彼女たちも、「SMについて知らない人たちが、何がわかってないのかがわからない」と言ってました。そういうもんです。

彼女らがうまいこと突っ込んでくれ、自ら説明を入れてくれてもいたので、それほど不明な点はなかったでしょう。と自分では思ってしまうのですが、揃って説明しなければならないことをスルーしたことがあったかもしれない。

 

 

わかっていないこともわからなかった私の体験

 

vivanon_sentence私自身、わからない側にいて、わからないこともわかっていなかったことがあります。SM雑誌「ビザール・マガジン」の取材で、初めてSMクラブに行って初めてMプレイをした時に、痛くて苦しくて、それでも耐えていたのですが、さんざんひどいことをしたあとで、女王様が「我慢できない時は“お許し下さい”って言えばいい」と教えてくれました。早く言ってよ。

私は「お許し下さい」がSMの世界で使用されることは知っていても、全国共通に、プレイをストップするお約束のワードであることを知らなかったのです(この時のことはエロ街道をゆくに収録されています)。

まったくの初心者がSMクラブに来た場合、通常は最初に説明するとしても、女王様としてはSM雑誌の取材で来るライターがそこまで何も知らないとは思っていなかったのはやむを得ず、「お許し下さい」と言わないから、まだまだ大丈夫と考えたのは当然です。

「彼女の説明が不充分だった」とは言えるとしても、「当然そのくらいは知っているはず」と考えた女王様を責めることはできない。ディルドをケツに入れるのは縄、鞭、ロウソク、言葉責めの次くらいにポピュラーなプレイであり、彼女にとってはサービスをしただけです。

「不勉強な私が悪い。それにしてもディルドを入れられた肛門が痛え」とケツを押さえて泣くしかない。血が出たかどうかまでは覚えていないですが、私の可憐な肛門は何日もの間ヒリヒリしてました。

※今気づきましたけど、『エロ街道をゆく』はもう在庫がないんですね。ぼちぼち売れたので、単行本も文庫も多数Amazonで売りに出てます。中古でお求め下さい。

 

 

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