知財教育は工業系が積極的、美術系は消極的—大学における知財教育[上]-(松沢呉一)
ボツにしたこのシリーズを改めて出すことにした事情は「「童貞。をプロデュース」の権利を互いにどう把握していたのかが気になる—包茎復元計画[番外2]」を参照してください。ただし、あの映画の権利関係については、私自身、わかっていないので、あれとこれとは直結するものではないです。とっとと裁判で事実関係を明らかにして欲しい。
「学術ルールと著作権ルールの違い—カンニングの仕組み[9](最終回)」から続いてます。「パターナリズムから抜けられない大学教員—懲戒の基準[30]」も参考にしてください。
美術系の大学は著作権教育に消極的なよう
ほとんど同時期に起きた深井智朗の盗用事件と勝海麻衣のパクリ騒動の共通点は大学がからんでいるってことです。前者は学長であり、後者は大学院生。後者は在籍しているってだけでなく、卒業制作でも盗用をした疑いがあります。
さまざまなジャンルで知財に関する意識を高めなければまずい時代になってきていることは広く知られていて、力を入れている大学もあります。
以下は大学院ですが、早稲田大学大学院法学研究科知的財産法LL.M.コース。
美術関係の大学も当然対応しているのだろうと思って、東京芸大出身者に、芸大ではどう著作権や知財を教えているのか聞いたのですが、著作権の授業はなく、授業の中でも著作権について教えられることはなく、年に1回だけ、新入生対象に単位と無関係の講座があるそうです。
卒業して2年ほどしか経っていないので、おそらく今も事情は変わらないはず。4年間で1回ですよ。出るも出ないも自由であって、新入生以外も聴講できるようですが、毎年似たような内容でしょう。著作権は実践的に学ばないと身に付かないところがあって、大学に入ってすぐに講座に出ても理解しにくいでしょうから、同じ内容でも毎年聴講することには意義がありましょうけど、先には進めない。
出版社でも入社時に著作権のレクチャーを実施しているケースはあります。あとは実際の作業の中で学んでいくってことです。社外のセミナーに経費で参加できるようになっている会社もありますが、数は少ないかと思います。
結局のところ、上司がどの程度著作権に精通しているのかによっても、また、本人がどれだけ関心があるのかによっても違ってきて、若手でもムチャクチャ詳しいのがいる一方で、編集を何十年もやっていながら、間違った知識を開陳する人も見かけます。大学までにしっかりした著作権教育がなされていればいいのにとよく思います。
美術系大学では対応が遅れている様子
芸大に限らず、今時の美術系の大学では、著作権や知財の授業が必須になっているのだと思っていたのですが、ネットで見ると、そうでもない。学科によってあったりなかったりです。
以下は武蔵野美術大学。
見逃しているかもしれないですが、通信教育課程とデザイン情報学科しか知財関係の講座は見当たらず。たしかに工業デザイン、商品のパッケージ・デザインの場合は商標や意匠、不正競争防止法も関わってきて、莫大な損害賠償が発生する訴訟が起きたりもします。
多摩美や女子美は見当たりませんでした。
むしろ美術系以外の大学、学部、学科で知財関係の講座があります。とく工業系。
大阪工業大学には知的財産学部というのがあるのですね。
デザインとは別に、工業系だと特許や実用新案等の権利も関わってきますから、当然と言えば当然か。とくに理系は産学連繋の中での権利配分や昨今の研究分野での不正の問題もストレートに関わってきますので、どの点をとっても鈍感ではいられないのでありましょう。
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