松沢呉一のビバノン・ライフ

症状が出ていない感染者が他者に感染させるか否かの議論—健康な若い世代はほとんど死なない病気[8]-(松沢呉一)

ウイルスを広げているのはおもに中高年—健康な若い世代はほとんど死なない病気[7]」の続きです。

 

 

 

注意すべき対象を間違えている人々

 

vivanon_sentence前回見たように、公表されているクラスターの年齢を確認すると、活発な中年層が地域をまたがって感染を広げている事実が読み取れますが、10代から20代の、一般的に言われる「若者」はあまり登場しないクラスターが多いのです。

珍しく高率で「若者」が登場するのはナイトクラブ・クラスターです。接待営業をする側、つまりホステスさんは20代から30代。ほとんどの場合、客はそれよりも年齢が高くて、店によっては30代から40代が中心、店によっては50代から60代が中心。志村けんがそうであったように、70代も出入りします。

ここでは若者が中高年に感染させているとも言えますが、ここに持ち込んでいるのは中高年だったりしますから、どちらが感染させているかケースバイケースでしょうし、防疫上は意味があっても、「犯人探し」をしたってしょうがない。意図して感染させたわけでもあるまいし。

ナイトクラブほど高率ではないながら、もうひとつ「若者」が登場するクラスターは老人介護施設です。全国で続々感染者を出しています。職員は20代から40代が中心で、10代の職員が感染した例もあります。利用者は70代から80代が中心です。

住居施設になっている場合は外から職員が持ち込んでいる可能性が高いですが、訪れた親族が持ち込んでいることもありそうです。デイケアサービスの施設だと、多数の老人が出入りするため、老人が持ち込んでいる可能性もあります。

こういった施設では病院に比べるとガードが甘い。さして用もないのにダベりに来ているような老人たちもいます。

現に多数の感染者が出て、死亡者も出ているんだから、こういう施設に積極的に対策を注意を呼びかけ、利用者に「緊急の用もないのに訪問しないように」と呼びかけるのはいいとして、こういう施設に関与していない若者一般にことさらに注意することに意味はない。

※2020年4月3日付「ANNニュース」より。業種で言うと、最大の感染者を出しているのは老人介護施設ではなかろうか。

 

 

無症候感染者は感染させることがあるのか否か

 

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「若者が感染させている」とはとうてい言えないと悟ってか、それでもなお若者への憎悪に狂った人々は「症状が出ないために感染している自覚のない若者が活発に動き回ることで老人に感染させ、老人が死ぬ」という話をさも見てきたかのように言い出します(こんな話を言い出したのは誰なのだろう)。これが成立するのは、若い世代にだけ症状が出ない人(無症候感染者)が出現する場合のみ、症状が出ない潜伏期が若い世代特有に見られる場合のみです。

表面化している感染者の裏に無症候感染者がいるのは事実ですが、若い世代特有に無症候感染者が出るなんて事実は確認されていないはずですから、無症候感染者は全世代に存在します。世代である程度偏在する可能性もあるのですが、今のところ、そのような報告はないと思われます。

活発に動き回って高年齢層に感染を拡大しているのはむしろ中年層ですから、そのような存在がいるのだとすると、中年層に多いと考えた方がよさそうです。病気の特性からではなくて、行動の特性からです。

「症状の出ない若者が〜」なんてことを言う人たちは調べたこともないのでしょうが、そもそも無症候感染者は他者に感染させることがあるのか否かという問題があります。

 

 

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