松沢呉一のビバノン・ライフ

恋愛禁止規定再考—懲戒の基準[43]-(松沢呉一)

大澤昇平の差別発言で懲戒解雇にするルール改正は可能か—懲戒の基準[42]」の続きです。

 

 

 

仕事関係では恋愛やセックスを避けるポリシー

 

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両者の合意で結婚ができるようになったことの素晴らしさ—RADWIMPS野田洋次郎の優生思想[2]」で、「今の時代は誰が誰とどういう基準で結婚するも自由、両者の合意さえあれば、親が反対しようが婚姻届けは出せる」という話を書きつつ、「しかし、日本でも、社内恋愛、社内セックス、社内結婚禁止の時代が来るかもな」と思ってました。

そうなったら、社内については両者の合意があっても恋愛ができなくなり、結婚もしづらくなり、個人と個人の意思より上位に所属する企業が位置することになるのではないかとのひっかかりがありました。そこがひっかかりながらも「RADWIMPS野田洋次郎の優生思想」をまとめ、そのあと改めてこのことを考えてみました。

もともと私は仕事の関係が継続している限りは恋愛やセックスの対象にはしないというルールをもっています。継続した仕事をする関係じゃなくなれば、仕事で知り合った関係と恋愛するもセックスするもありです。

はっきりそう思ったのは30代になってからだったと思います。自身の体験や周りの人々を見て学習した結果です。

恋愛やセックスは、それをする時は頭がおかしくなっているので、勢いでできてしまいますが、その情熱が覚めた時、一定の確率でトラブルが生じます。

とくに不倫となるとその率は高くなって、時には周りまでを巻き込んで人間関係をズタズタにし、仕事にまで支障を生じさせます。トラブルにならなくても周りの人たちにとっては不都合の方が多いことは皆さん体験しているのではないでしょうか。

どうしても恋に落ちること、どうしてもセックスしたくなることはあるでしょうし、相手が積極的だと断るのが惜しいこともあるでしょう。やってはいけないことをすることが気持ちいい、誰も知らないところで2人だけの秘密を作ることが楽しいということもありましょうけど、それが結果、周りの迷惑になることをわかっていても自分の快楽を優先すべきかどうか。

一時の欲望に走ることと、そのマイナス面を比較すると、しない方が賢明です。長らくヤリチン・ヤリマンを続けている人たちはたいていこのルールをもっていることがこの知恵の有効性を物語りましょう(その一例は「三桁にして初めての体験—ヤリマンからの電話[1]」参照のこと)。

性風俗であれ、ナンパであれ、ハプバーであれ、仕事と無関係の場所でセックスをしまくって、仕事では一切そういうことをしない人の方が私も仕事をやりやすく、仕事で欲望を満たそうとする人たちよりもずっと爽やかです。

しかし、これはあくまで個人のルールです。知人に「身近なところでの恋愛やセックスは避けた方がいい」とアドバイスすることはあっても、仕事関係で恋愛やセックスをしている人に注意するようなことは通常ありません。好きにしたらええ。その代わり、トラブったら自分で解決せえ。他人に解決を期待するな。

※下に出てくる#MeTooによって社内規定がどう変化したのか」の調査。この調査を実施したChallenger, Gray & Christmasは再就職支援の企業。

 

 

恋愛に関する社内規定が進む米国

 

vivanon_sentence個人としてそういう考えを持っていても、恋愛・セックス・結婚は私的領域に属する行為である以上、そこに会社が介入するのは不当だと考えていたのですが、米国の現状を知るに従って、転向しました。個人のルールから会社のルールへ。

以下を参照のこと。

 

マクドナルドCEO解任に見る社内恋愛禁止の論理—懲戒の基準[36]

米国で社内恋愛禁止規定が一般化してきた背景—懲戒の基準[37]

Googleに必要なのは社内恋愛禁止規定—懲戒の基準[38]

社内恋愛禁止によってもたらされる問題をどう解決するか—懲戒の基準[39]

 

しかし、よくよく考えてみると、私の考えには欠陥があるかもしれないことに気づきました。

以下、その事情を述べていきます。

 

 

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