カタルーニャとバレンシアの音楽群[3]—ポストコロナのプロテスト[133]-(松沢呉一)
「カタルーニャとバレンシアの音楽群[2]—ポストコロナのプロテスト[132]」の続きです。
トゥリバーデ(Tribade)
バルトニクやパブロ・ハーゼル支援の曲「Los Borbones son unos Ladrones」には国外から参加したミュージシャンもいたのですが、スペイン国内では、やはりカタルーニャとバレンシアからの参加が多い。
その中でもっとも先に取り上げたいのはバルセロナのトゥリバーデです。
トゥリバーデはガリシア(Galicia)語で「貝合せ」。歌詞や映像の中でもレズビアンがいることが示唆されています。ガリシア語は、ガリシア地方で使う言葉。カタルーニャの反対側、スペインの北西部、ポルトガルの北に飛び出た部分で、言葉もポルトガル語に近いらしい。
以下は昨年の曲。「Los Borbones son unos Ladrones」のあとです。
ヤバ。
でも、歌詞も映像も現金輸送車襲撃の計画です。強盗をテロとは言わない。しつこくしつこくサボれ、サボれと言っています。つまりは止めてますから、推奨、煽動ではない。私も一緒に「サボってやろ」と歌ってます(歌詞ではsabotealo。「妨害する」の意味)。
罰則つきヘイトスピーチ規制賛成の人々はしばしば萎縮効果を軽視しているわけですが、貝合せのファンじゃないですかね。こういうものばっかり聴いて、「萎縮は起きない」と言っているわけですよ。
以下は2018年の曲。
サンタマリーアのところが好き。
プッシー・ライオットを想起させ、あたかも宗教批判のようですが、歌詞はそれとは関係なくて、フェミニズムがテーマです。どう解釈するのかは難しくて、「フェミニズムの力を目撃しましょう」というフレーズがあって、ここを見ると、フェミニズム肯定の曲のようなのですが、そのあとで「私はフェミニズムに値しません。破門してください」というフレーズが出てきます。
「今日は抑圧されている明日の抑圧者」という言葉もあって、自分が抑圧されているとの設定が新たな抑圧者としてふるまうことにつながることを言っているようにとれます。よく見られることです。
この曲は異端告白をすることで、フェミニズム領域外のフェミニストになったということではなかろうか。わからんですけどね。
歌詞の中にアンジェラ・デイヴィス(Angela Davis)が出てきます。そのうち他の人のMVでも彼女が出てきます。私は黒人解放運動の闘士としてしか認識していないですが、フェミニズムの論者としても評価が高いらしい。
バルカン・パラダイス・オーケストラ(Balkan Paradise Orchestra)
以下はトゥリバーデがゲスト参加したバルカン・パラダイス・オーケストラのライブ。
BPO(って言うと、放送なんとか機構みたいですが)は2015年結成。指揮者っぽいのが男かもしれないけれど、あとは全員女。うち3人くらいは脇毛を生やしていると思うのですが、未確認。
いろんなもんが入っていながら、一番影響が強いのはクレズマー。なんでバルカンとつけたんだろ。バルカン半島の北部はクレズマー圏ですけど、南部はそんなにユダヤ文化が強くなくて、その代わりにジプシー音楽が強い。私は南部派です。
この曲は「Resiste」ってくらいで、反抗の曲でしょうけど、歌詞がわからない。BPOはそんなには人気がないのと、インスト曲が多いために、ほとんど歌詞が見つからない。
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