松沢呉一のビバノン・ライフ

自殺未遂はコミュニケーション(の側面が否定できない)—サイレント・エピデミック[6]-(松沢呉一)

自殺未遂は女の方が多く、死ぬのは男の方が多い—サイレント・エピデミック[5]」の続きです。

ここまで「2020年の自殺率」については「緊急事態宣言に抗する」シリーズに入れていたのですが、長くなったので独立させました。サイレント・エピデミックという用語については男の方が圧倒的に自殺が多い現実を無視する人たちには女の自殺率の増加を説明できない—サイレント・エピデミック[4]」を参照のこと。

 

 

 

なぜ男性は確実に死ぬ方法を選び、女性はゆるい方法を選ぶ傾向があるのか

 

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男女で自殺する方法に違いがあって、男性は確実に死ぬ方法を選ぶ。では、なぜ男性の方が確実に死にたがるのか。

自殺の方法とその成功率はヨーロッパでも調査されていて(ここにリンクした論文参照)、ジェンダー・イメージに左右されるのではないかと書かれていました。自殺に失敗するのは男らしくないので、男は確実に死ぬ方法を選択するのだと。

「死のうとした自分を知られたくない」ってところか。自殺すればどうせ知られるわけですが、死んでしまえばこっちのもん。ということもあるかもしれないし、ないかもしれないし。

死後、汚い姿になりたくないという美学が女性は強いとの指摘もあります。ということもあるかもしれないし、ないかもしれないし。

それよりも、「自殺未遂で終わる人たちには死ぬ意思が軽度な人たちが混じっているのではないか」と思えて、女性には「死ぬかもしれないし、死なないかもしれない」という自殺が多い可能性があります。死ぬ決意をした以上、確実に死ぬ方法を選択するのは当然と言えば当然であり、この差は死ぬ決意の男女差から生じていそうです。

※数が多いため、執筆名省略「Suicide methods in Europe: a gender-specific analysis of countries participating in the “European Alliance Against Depression”」 ヨーロッパにおける自殺方法の調査

 

 

自殺者と未遂者の年齢ピークの大きなズレ

 

vivanon_sentenceこのことは自殺未遂の数がもっとも多い年齢層と、実際に死ぬのがもっとも多い年齢層とが完全にずれていることでも確認できます。

前回出した2006年の米国における年齢別自殺未遂率のグラフを見てください。若い世代に大きな偏りがあり、10代後半は女性の自殺未遂数が急上昇することに注目。

続いて下に出したのは2013年の米国の年齢別自殺率。データの年が違いますが、2006年でも2013年でも、年齢の分布は大きくは変わらないでしょう。

自殺未遂のピークは10代後半なのに対して、実際に死ぬ人のピークは50代前半です。次の自殺死亡者のピークは80代であり、死のうとする人の数がもっとも多いはずの10代は遠く及ばない。この差は死ぬ意思の違いです。

 

 

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