松沢呉一のビバノン・ライフ

ここ半世紀でケニアが大きく変わった点—マゴソスクールの卒業生たちのプロフィールを読む-(松沢呉一)

スラムの生活は想像を超えて厳しい—ケニアの物価と貧困層の収入」の続きです。

 

 

 

オコチャ君の紹介文を読んで泣いてしまいました

 

vivanon_sentence早川千晶さんのチャンネルが次々動画を出してきます。

昨日公開されていたもの。

 

 

校長先生が言っている生徒たちの環境は、「マゴソOBOGクラブ」に出ている卒業生一人一人の紹介文を読むと実感できます。

そういうのがマゴソスクールに来ているから当たり前ですが、全員厳しい環境です。片親がいない、両親がいない、親は仕事がない、仕事があっても収入が少なく極貧。親がアルコール依存症というのも複数います。親に虐待されてきた子もいます。

そんな環境自体が過酷である上に、学校に通いたいとやってきた子どもたちを親が応援してくれるかというと、そんなことはない。両親とも学校には行ったことがなく、それどころか親族も全員行ったことがないため、学校に行く意義を理解してくれなかったりもします。

兄弟姉妹は軒並み小学校を中退している生徒もいて、いかに継続することが困難なのかがわかります。

マゴソスクールを卒業さえすれば安泰となれば親も学校に通うことに賛成してくれるでしょうけど、今の世代は9割以上がプライマリースクールを卒業するケニアで、マゴソスクールを出るだけでは仕事はない。セカンダリースクールまで出ても、結局得られる仕事は300KShの日雇いだったりします。コロナ禍では収入ゼロになった人たちも多いはず。

映像では、生徒たちは陽気で元気に見えますけど、「スティーブンはものすごく引っ込み思案の性格で、何時もおどおどしている感じの生徒」と書かれているのもいます。そりゃそういう生徒もいましょう。「ケニア人はみんな陽気」という評価の中では見えなくなる存在です。

それでもスティーブン君は成績がいいので、奨学金を得てセカンダリースクールに進んでいます。

限られたリソースをどこに投下するのかと言えば成績がいい子たちになるのは当然。できれば大学まで進んで、目標である医師やエンジニアになって欲しい。そこからフィードバックされて、次の世代が少しでも楽になれる可能性のあるところに金を使うのが堅実。

しかし、人徳もあって、やる気もあるのに、成績が悪くて進学できなかった元生徒会副会長のオコチャ君の紹介文を読んで、私はボロボロ泣いてしまいました。彼は体が悪いので、勉強にも影響したのでしょうし、働こうにも仕事はない。今も学校にしか居場所がないのです。まずは体を治すことですけど、それが容易ではないのはここまで見てきた通り。

 

 

半世紀でケニアが大きく変わったこと

 

vivanon_sentenceさて、ここで疑問です。今目の前にいる悲惨な環境の子どもたちを支援して、その子らはマゴソスクールを卒業できて、世間並みの学歴を手に入れて、成績のいい生徒は奨学金を受けながら高校、大学まで進学できてスラムから抜け出すことができても、大多数の子はスラムから抜け出ることができません。

スラムは巨大化していて、貧困層は広がっており、マゴソスクールへの入学希望者は増え続けています。このまま支援を増大させていくしかないのか? 増大させた先に解決はあるのか? 支援に依存する人たちを作り出しただけなのではないか?

こういった疑問を抱くのは当然です。しかし、いくらマゴソスクールのサイトや動画を見ても、それに対する解答が見えてこない。

実はよーく見ると、学校の意義と成果がわかるのですが、それを説明する人がいないので気づきにくい。では、私がやっておくとします。

 

 

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