エイズ禍でもセックスを諦めなかったアニー・スプリンクルの闘い—『アニー・スプリンクルの愛のヴァイブレーション』[下]-(松沢呉一)
「セクシーな装いによって自由を得る—『アニー・スプリンクルの愛のヴァイブレーション』[中]」の続きです。
どこの国にもいる難癖集団
今でもとくに娼婦、ヤリマン、あばずれを匂わすことで解放感が強まりますが、同時に攻撃性が高まり、言うまでもなく善良な人々から拒否されます。
アニー・スプリンクルの解放の歴史は闘いの歴史でもあって、「善良な人々」からのバッシングも受けています。そのひとつについて比較的詳しく述べられています。パフォーマーとしての彼女は、詩人のエミリオ・キュベイロと組んで「ポスト・ポルノ・モダニズム」という出し物を編み出して話題となります。
ニューヨークの「ザ・キッチン」から、この演目を上演して欲しいという依頼を受けて、14日連続の公演を実施。これに対して保守派から、「血税をセックス・ショーに使った」として批判がなされます。この公演自体に税金が投下されたわけではないのですが、「ザ・キッチン」はハコとして助成金を受けていたことを指します。この問題は国会でも議論されますが、結局のところ、難癖でしかなく、「ものすごい宣伝になったので、よかった」と書いていて、この公演は、政府が助成金を出しているドイツやオランダの劇場でも演じられました。
警察の動画で戸定梨香を起用したことが気に食わなかった全国フェミニスト議員連盟を彷彿とさせます。保守派のメディアや宗教的原理主義者たちときれいに重なることをやっている日本のフェミニストさんたちの素晴らしさ!! 自分たちの足場がいったいどこにあるのかをあますところなく見せてくれた素晴らしさ!!
※The Hafler Trio 「Ignotum Per Ignotius」 「ポスト・ポルノ・モダニズム」の音楽は英国のオルタナティヴ・バンドであるハフラー・トリオのアンドリュー・マッケンジーが担当(実質的にハフラー・トリオとアンドリュー・マッケンジーはイコール)。このCDを含めて何枚かハフラー・トリオは持っていたんですけど、全部手放しました。
少数派としての権利を主張する人々がさらなる少数派を蔑視し、排除する構造
彼女の文章の中でとりわけ印象に残ったのは「ゲイ・プライド・パレード」と題された短い文章でした。
80年代半ば、彼女は当時つきあっていたマイク・アンダーソンという恋人や仲間とともにプライド・パレードに初めて参加します。彼女はすでにバイセクシャルであるとの自覚があって、プラカードの片面には「小人を愛する誇りに満ちたバイセクシュアル露出狂」(マイク・アンダーソンは小人症)と書き、もう片面には「私たちはエイズに罹った仲間たちを愛し、支援する」と書きました。
彼女は性の自由に満ちた場を求めていたのですが、必ずしもそうではありませんでした。
小さなグループは彼女たちを歓迎してくれ、大きなグループには拒絶されました。詳しく書いていないのですが、今も韓国にも日本にもいるように、エイズについて触れると受け入れられにくくなるという人たちがいたのだろうと思います。
また、アニー・スプリンクルの存在はすでに知られていて、セックスワーカーに対する拒絶だったのかもしれない。
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