タバコが排除され、蚊取り線香もお香も排除される—煙が消えた社会[下]-(松沢呉一)
「いたるところに煙があった時代のタバコ—煙が消えた社会[上]」の続きです。
「煙は体に有害」という認識の浸透
私の子どもの頃は車からの排ガスが社会問題になってました。対策がさなれたためか、今はあまり聞かなくなってますが、かつての排ガスは諸悪の根源。
自動車からの排気ガス、工場からの煙といった公害が1970年代に大きな問題となり、この時期に煙の意味合いも大きく変わったのではないでしょうか。ただ不快というだけでなく、そこに健康を損ねるという、いわば大義名分が加わって、煙を強く忌避する人たちが出てきたように思います。
中学の時は、遠くにパルプ工場の煙突が見え、そこからモクモクと煙が出ていました。煙突が高いため、工場の近くでは臭わず、遠くに飛ばすため、風向きによっては、なんとも言えない悪臭が漂ってきました。たぶん有害物質は除去していたのでしょうけど、それでもいい気分ではありませんでした。
こういう工場も、今はさらにニオイ自体の除去をしているのではなかろうか。
都市部では焚き火も花火も今はできなくなっています。東京だと条例でできない。川原や公園で花火をしているところはたまに見かけますが、通報されかねないでしょう。実際に焚き火や花火から火災になることがあるのですから、忌避することも、条例の規制も批判しにくい。
古道具屋に火鉢がよくありますが、現役で暖房として使っているケースは稀でしょう。薪のストーブも石炭ストーブも使っている家庭はごく一部。庭の焼却炉でゴミを焼いている家庭もごく一部です。小学校や中学には焼却炉がありましたが、そのまま設置されていても、今はは使われていないのかもしれない。
たしかに煙は我々の生活の中から消えています。その分、タバコの煙が目立つようになりました。ということは今も残る煙はタバコと同様ではないとしても、敬遠されるようになってきているのではなかろうか。
※前回に続いて「江戸時代の褌」より。濡れたままだと舟の底が腐るため、乾燥させているところらしい。今も木造船は塗料で腐食をある程度は防いでいるわけですが、小型の舟はこうやって腐食を防いでいたのですね。
あらゆる煙は追放される
禁煙をしてつくづく実感しましたが、タバコはいい香りです。とくにパイプタバコや葉巻。
しかし、同じそのニオイを悪臭だと感じる人たちがいます。健康を害するニオイですから、嫌うのは当然とも言えるのですが、であるなら、ほとんどすべての煙は嫌悪されてよく、葬られていいことになります。
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