松沢呉一のビバノン・ライフ

ウクライナ国防省がロシア連邦保安庁のスパイ620人分のリストを公開—ウクライナIT軍の仕業か?-(松沢呉一)

ロシア軍の末期症状—解任・自殺・部品の横流し・情報のダダ漏れ」の続きです。

 

 

 

ロシアのスパイ620人分のデータをウクライナ国防省が公開

 

vivanon_sentence「情報のただ漏れ」は通信の傍受だけではなく、ハッキングによるものもあります。

一昨日、ウクライナ国防省がヨーロッパで活動するロシア連邦保安庁(FSB)所属のスパイ620人分のリストを公開。個人名、勤務地、住所、パスポートデータ、経済状況、所有する車の情報までが記載されていて、人によっては「酒癖が悪いため、交通違反が多い」などの特性も記載されています。

FSBはKGBを継承する組織であり、世界中にスパイ網を張り巡らせているロシア最大の諜報機関。世界最大規模の諜報機関のひとつと言っていい。なのにスパイ名簿を持って行かれてやんの。だっせえ。軍備についてはハリボテだったことがすでに明らかになっている上に、FSBもハリボテ。

これらのエージェントは、それぞれに現地で動くコマを持っているので、これだけで全貌が掌握できるわけではないですが、いわば各地の元締めです。

すでに各国でマークされている人物もいるでしょうが、ノーマークだった人物も相当数いそうです。ロシアのスパイはしばしば大使館員として勤務していますが、それもすべて照合できましょう。

このところ、各国でロシアのスパイが国外退去になってますが、さらに拍車がかかるのは必至です。

ただの職員リストなら支障は少ないですが、スパイは周りにもスパイであることは隠していて、家族にさえ黙っていなければならないはずですから、こんなもんを公開されたらたまったもんじゃない。近所の人たちが「あそこんちのご主人はスパイなんですってね」と噂をし、子どもが「おまえの母ちゃんはスパイかよ。スパイ手帳を見せてくれよ」と言われます。

もっともガードが堅いはずの諜報機関の内部情報が公開されたこと自体赤っ恥であり、今後の諜報活動にも影響が出る上に、おそらくもっと重要な機密をウクライナはつかんでいるでしょう。つかんでいないとしても、ロシアとしてはつかまれていると疑心暗鬼になるはずで、停戦交渉にも影響が出そうです。このタイミングで出してきたのはそのためだと見られています。

これはウクライナIT軍の仕業でしょうか。

※2022年3月28日付「Українська правда」この件を報じる「ウクライナ・プラウダ」。ロシアの「プラウダ」とは無関係のウェブニュースサイトです。

 

 

ミハイロ・フェドロフによるウクライナIT軍

 

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今回の戦争は「サイバー戦争」「ハッカー戦争」の側面もあります。

31歳のIT大臣ミハイロ・フェドロフは、ロシアの侵攻が始まった2月24日にウクライナIT軍を設立。この段階ではまだ動いていないはずなので、ウクライナIT軍ではないハッカーたちによるものでしょうが、同日、ロシア国営メディアRTのサイトが攻撃され、6時間にわたってダウン。

26日にIT軍創設を発表。同日、 ロシア大統領府のウェブサイトがダウン。

28日にはウクライナIT軍はモスクワ証券取引所のサイトを5分でダウンさせています。

ロシアのハッカー集団も応戦していますが、今のところ、ウクライナIT軍の攻撃が勝ってます。

恐れられていたロシアのハッカー集団の動きが悪いことに対してはさまざまな憶測が出ていて、「ここ数年、安価で効果の薄い武器開発しかしていない」との指摘も出ています。公営ハッカーに、ロシア軍と同じことが起きているかも。予算がない。あっても組織の腐敗で十分に使えない。

対するウクライナIT軍も予算はないですが、誰でも参加できるのが強み。政府がIT産業育成に力を入れてきたため、ウクライナってIT大国なんですってね。その人材がIT軍に集結。登録者数20万人以上(とされていますが、これはTelegramの登録者数とも思えて、あんまり意味ないかも。現在は30万人を超えています)。とくに優れたIT能力がなくても、数で解決できることもあります。

 

 

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