数千万人が餓死する食糧危機がいよいよ現実のものになってきた—この点でもロシアの悪質さは強調しすぎることはない-(松沢呉一)
「小麦の高騰・スシローの値上げ・ロシアの山火事はすべてロシアの侵略戦争が一因—プーチンは地球の敵・人類の敵」の続きです。
「最後の回転寿司」気分
数日前に、知人と「立ち食いそばと回転寿司の値上げがショック」という話をしていたら、値上げして以降は二度と寿司が食えないような気分になってきて、無性に寿司を食いたくなりましとた。
そのすぐあと一人で食いに行ったのですが、回転寿司屋に向かう途中で金髪と黒髪の若い女2人が向こうから歩いて来ました。すっごい楽しそうに話をしていて、すれ違いざまに聞こえた言葉はスラブ系でした。
ロシア語やウクライナ語を毎日耳にしているため、耳が慣れてきています。相変わらず意味はわからないし、ロシア語かウクライナ語かポーランド語かの区別はつかないですけど(知っている単語が少しあるために、ブルガリア語はブルガリア語だとわかることがあるかもしれない)、スラブ系であることは察しがつきます。
黒髪の方はアジア系の顔立ちでしたが、チンギスみたいに、ロシア人にはアジア系の人たちもいますので、何人かを見極めるのは難しい。
ウクライナ人であれ、ポーランド人であれ、「ウクライナのM777榴弾砲で、ロシア軍の戦車隊が壊滅だってさ。ざまあ」といった会話を交わしていたに違いありません。それ以外で、あんなに楽しそうに会話ができるネタを私は知らない。
「最後の回転寿司」をひとつひとつ味わいながらあれこれ考えていたのですが、「あれこれ」ののほとんどは「ウクライナ戦争のあれこれ」です。
私が「ロシア軍は許せねえ」と心底思ったのはブチャほかの民間人の虐殺でした。戦争になってもルールは守れよ。
続いて「ロシア軍は許せねえ」と心底思ったのは、ホロドモールの再現を狙っているらしきことに気づいた時です。小麦倉庫を爆撃することに、それ意外の意図があるとは思えない。
※都市部のくら寿司はすでに値上げしているので、最後の寿司としては適切ではないです。
ウクライナ軍は世界のためにロシアと闘っている
世界の食料事情が危機的なところに至りつつあることはずーっと書いてきた通り。とくに気候変動によって小麦の供給が不安定になってきています。オーストラリアの干ばつ、中国の洪水、地中海沿岸の熱波と洪水、北米のハリケーン…。
それでも安定供給してきたエリアがあって、それがロシアとウクライナでした。そのロシアがウクライナを侵略し、黒海艦隊が海からの小麦の運送を断ち、小麦畑に入り込み、農耕機械を破壊し、部品を略奪し、小麦倉庫を爆撃しています。さらに撤退する際に小麦畑に地雷を仕掛けていく。これだと来年以降の収穫も停滞しそうです。
経済制裁に対抗して、ロシアは小麦を武器にするつもりです。ロシアに肩入れするのは分が悪いと見て、表面的には距離を置いていますが、決して批判はしない中国が小麦は引き取るでしょうから、ロシアは損をしないとして、世界の小麦供給は確実に不足します。小麦の高騰はただでさえ膨らむ難民に回す小麦の量に顕著に影響し、今年、来年で数千万人の餓死者を招きそうです。絶対量がないのですから、仮に国連世界食料計画に十分な寄付をすると、小麦の取り合いに拍車がかかり、貧困国で小麦不足が起きて。難民ではないのに餓死者が出かねない。
人口が増えすぎてしまったことを前提に、小手先の対策でごまかしてきたことがロシアのせいでもうごまかし切れなくなりました。
なぜかこういうテーマは日本のメディアはあまり得意ではないですが、ここに来て急速に「ウクライナ戦争と食糧危機」という切り口の報道が増えてきています。無視できるようなことではないですから。
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