松沢呉一のビバノン・ライフ

同調力のメリットとデメリット—女子高生2人の飛び降り自殺と日本の心中史-(松沢呉一)

 

寝ながら自殺について思いを馳せた

 

vivanon_sentence

先日の日曜日、鼻からツーと汁が垂れてきて、また鼻血かと思ったのですが、鼻水でした。副鼻腔炎で調子が悪いのは右の鼻なのですが、今回は左。症状が広がったのかと生きる気力をまた失いそうになりました。

しかし、すぐにくしゃみが始まって、「花粉症か」と。花粉症の症状は年によって出たり出なかったりなのですが、もっとも典型的な症状は片方の目だけムズムズして涙が出ることで、今のところ、目の症状が出てないので、違うかな。

そのうち、咳も出てきて、頭痛が追い打ちをかけ、これは2月から3月にかけての症状と一緒。また風邪か。熱が出る前に治さなきゃと思って、一昨日は風邪薬を飲んでずっと寝てました。

選挙戦が始まったため、名前の連呼を耳にしつつ、「ダブルスタンダードを駆使する人々—生身の14歳に欲情しながらロリ(創作上の存在に欲情する)を罵倒する偽善者の仕組み」で軽く取り上げた女子高生2名の飛び降り自殺について、横になって考えてました。

 

 

 

とても死を決意したとは思えない2人です。

 

 

女同士の心中と女の同調力

 

vivanon_sentence最近聞かなくなりましたが、一時、自殺願望にとらわれた人たちの集団による練炭自殺、塩素自殺がよくありました。戦時の集団自決を除くと、自殺史からすると、相当に特殊です。インターネットの登場で大きな母数から一定の特性を持つ人々を一度に集めることが可能になった時代ならではです。

それに対して今回の女子高生2名の自殺は、伝統的自殺とも言えます。意外に思われるかもしれないですが、遊廓でも見られたタイプの心中です。遊廓では女同士ではなかったですが。

詳しくは「「吉原炎上」間違い探し」を読んでいただきたいのですが、遊廓の心中としてよく描かれる「一緒になりたいのになれないための悲恋心中」なんてもんは現実にはほとんどありませんでした。金があれば身請けできるのですし、金がなくても年季明けを待てばいいだけですから。

実際に多かったのは、死にたい客が娼妓を道連れにする無理心中です。遊廓での心中は大半がこれ。これは殺人ですから外すとして、心中としてもっとも多いのは、同情心中、付き添い心中でした。客の方に死ぬ理由があって、娼妓がそれに同情して一緒に死ぬ。切羽詰まったものではないにせよ、娼妓もまた貧しい家庭に育ち、身請けしてくれる上客もいない。客の窮状を自分に重ねて死を選ぶ。かといって、その窮状は、自身で死を選択するほどのものとはとらえられなかったと思われます。遊廓での単独の自殺は記録に出てこないですから。他者の窮状にシンクロすることで初めて死に至る。

また、昭和8年(1932)、伊豆大島三原山の女学生自殺がきっかけに多数の心中が起きます。三原山だけで千人近くが死んでいて、連鎖心中としては坂田山心中の次に多数が亡くなってます。とくに三原山心中は、始まりが女学生たちだったため、連鎖の中にも同情心中、付き添い心中による女子同士の自殺がありました。

男性同性愛者が一緒になれずに世を儚む自殺はあったかもしれないですが、男同士の心中は稀です。今から30年くらい前に、男3名がいずれも事業の失敗でともに自殺したケースがあったと記憶しますが、そんなに例を記憶しているくらい珍しい。

対して女同士の心中は、歴史的に見ると珍しくないのは、女の方が共感力、同調力が高いからだとされます。人の悲しみや辛さを自分のことのように感じる。それでも、多くの場合は、「死にたい」と言い出すと。誰かが「死なないで」と励ますことで自殺を回避します。というか、それを前提として「死にたい」を発するし、自殺未遂もするので、自殺は圧倒的に男の方が多いのに対して、自殺未遂は女の方が多いわけです。しかし、中には止めるべき人が同調してしまって、女子心中に至るケースも出てきます。

今回の女子高生2人も、繰り返し死ぬことをほのめかしています。

 

 

next_vivanon

(残り 1114文字/全文: 2878文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ