松沢呉一のビバノン・ライフ

公用語を話さない人々を甘やかしてきたラトビアの反省—国外脱出したロシア人たちの苦渋[5]-(松沢呉一)

ラトビアではロシア語排除が進む—国外脱出したロシア人たちの苦渋[4]」の続きです。

 

 

ラトビアの住民の4人に1人はロシア系

 

vivanon_sentenceロシアで治安部隊が国民のパスポートを取り上げることができるような法改正が進んでいて、それができる条件は限定されているので、すぐさま、徴兵されそうな若者が国外に出られないようにされてしまうわけではないと思うのですが、ロシアのことですから、どうなることやら。

さて、ラトビア。前回取り上げたロイターの報道を見るまで、私はラトビアのロシア系住民は、ロシア国籍を所有している人たちだとわかってませんでした。つまりはロシア系というよりロシア人ですが、ロシア語話者の全員がロシア国籍を持っているわけではありません。

ラトビアの人口は189万人。ラトビア人が67パーセントで多数派を占め、ロシア系は24.2パーセントであり、最大のマイノリティとして勢力をもっています。

はっきりとはわからないのですが、数字が合わないので、これらの中にロシア国籍のロシア人は含まれていないと思われます。つまり、この数字はロシア国籍のロシア人を除いたラトビア国籍のロシア系だろうと。

対してロシア国籍を持つ住民は35万人。ロシア国籍もラトビア国籍も持たないロシア系無国籍者が16万人。

このうち、ラトビア語のテストはロシア国籍の人たちに向けたものだと思われます。

ロシア国籍の住民が対象だとすると、ロシア国籍を放棄するのがテスト逃れのもっとも確実な方法です。帰化ですが、帰化もラトビア語ができることが条件ですから、どちらにしてもラトビアで暮らし続けるにはラトビア語は必須です。当たり前っちゃ当たり前。

ロシア人の子どもらもロシア国籍を取得できるのでしょうが、ラトビア独立以降は、学校で公用語の教育がなされているので、ラトビア語を話せないのは50代以上と、独立以降移住してきたロシア人です。この世代差が大きく、若い世代になると、ロシア批判層が増えます、

独立以前から住んでいる人たちは少なくとも30年以上その地に住んでいますけど、「先祖代々」とは限らず、ロシア支配の間にロシアから移住してきた人たちも多く、占領下のエリアに自国民を移住させて支配を進めようとしたロシアの方策の結果です。ナチスドイツが東部占領地域に自国民を移住させたことや中国共産党がチベットやウイグルに漢民族移住を進めているのと同じ。

国民の4分の1がロシア系という数字は全国を均したものであり、ソ連支配時代に移住してきた人たちは土地を持っていなかったため、農業はできず、もっぱら都市に住みました。その傾向が今も残っていて、首都のリガはロシア系が42.3パーセントで、半数以上がロシア系の都市もあります。

ここに出した地図はWikipediaより、バルト三国のロシア系住民の多いエリアを示したものです。中央部がラトビアで、西側の青い部分に首都のリガがあります。ラトビア語が通じない人たちが近所にいっぱいいる状態。

とくにラトビアでロシア語話者が多いのは、移住者が多かったのかもしれないですが、ラトビア政府がロシア語を優遇した結果なのだと思えます。そのため、言葉が通じないだけでなく、彼らの内面もラトビア人にとっては耐え難い脅威になっています。

 

 

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