松沢呉一のビバノン・ライフ

フェミニズムを勉強し直すべし—でまかせ連発だけではない石川優実の怖い特性[後編]-(松沢呉一)

「クレアの食速報」の的確な批判—でまかせ連発だけではない石川優実の怖い特性[中編]」の続きです。

 

 

批判対象と自分がイコールになっている怖さ

 

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昨日の「クレアの食速報」。

 

 

共産党の主張と石川優実の主張がズレてしまっていることを丁寧に説明してくれています。

石川優実が「自分は水着にならないと価値がないと思っている女の子へ」で高らかに宣言しているのは、クラビアの仕事、水着の仕事の否定です。公立のプールで開かれた撮影会だから共産党の県議たちは問題にしたはずなのに、その主張を覆してしまってます。「共産党の県議たちの本音はこれだ!! 本音としては人前で水着姿になるような女は全部否定だ」ってことですかね。

性の商品化」なんて論点を持ちだしたら、公的施設を使用しなくても問題ってことになるのは必然ですから、石川優実の言っていることはそんなにおかしくはない。

石川優実はこう書いています。

 

片方の性別のみに、本来その性別と関係のない「水着」というものを結びつけて商品として売り出す。これを「性の商品化だ」と考えることは、大人として必要なことだと思います。

 

水着の撮影会、水着のグラビアはすべて「性の商品化」だとしています。

 

しかし、今回の指摘にあった「性の商品化」は、いつでも「性的対象になれない女性の嫉妬」ということにされ、その指摘を無効化されます。都合の悪いことは本人がどれだけ「望んでいない」と訴えても、根拠なくそれは「嘘だ」ということにされて、「歳をとったババアが嫉妬して若い女性の仕事を潰そうとしている」ということにされます。

 

これと同じことを自分がやっていることにどうして気づけないのでしょう。怖くなります。

 

 

石川優実はフェミニズムを勉強し直せ

 

vivanon_sentence本人の文章を借りて、彼女のやっていることをまとめてみます(もとの文章が日本語としてこなれてないので、言葉を入れ換えるなどしています)。

 

本人がどれだけ「望んでやっている」と訴えても、都合の悪いことを根拠なく「嘘だ」ということにされて、「本当の自由を知らないからだ」ということにされます。

 

「他人がやるのは許さないが、自分はやってもいい」の強烈なダブスタ。彼女が嫌う社会のありようをまんま自分の中に温存していることにまったく無自覚です。

これこそ「普遍性のある傲慢な間違い」です。とくにセックスワークの議論においてよく見られます。「自分の意思でやっている」といくら言っても。「社会にそう思わされているだけだ」と否定する。「おまえは女だからわからないのだ」と頭ごなしに否定してきた男社会の手法をそのまま使うのがフェミニスト? 笑わせるな。

ずっと繰り返してきたように、本来、フェミニズムの根幹に流れているのは個人主義です。田嶋陽子もそう言っていますあの人の欠点はそれが徹底できていないことです。

「女は〜すべし」と社会が性別で一律の規範を押し付けてくるのに対して、「社会進出するもしないも個人が決定すればいい」「結婚するもしないも個人が決定すればいい」「出産するもしないも個人が決定すればいい」「離婚するもしないも個人が決定すればいい」といったように、個人の選択を拡大してきたのがフェミニズムです。

たとえば投票し、立候補する選択をするには婦人参政権が必要でした。そんな必要はないと思う人は投票せず、立候補しなければいいだけ。

しかし、これに対して逆の方向から「女は社会進出しなければならない」「女は結婚してはならない」「女は出産してはならない」「女は離婚しなければならない」「女は投票しなければならない」と相変わらず性別で一律の規範を押し付けると、選択肢がなくなります。これはフェミニズムに逆行します。

水着でモデルをやるもやらないも個人が決定すればいい。なのに、一律で否定するから、「女の敵は女」になるのです。

ここで改めてクレアさんの主張を褒め称えたい。もう一度彼女の言っていることに耳を傾けてください。

 

 

クレアさんは自身をフェミニストだなんて思っていないでしょうが、彼女がここで言っているのは正しくフェミニズムを踏まえてます。石川優実が言うことに一定同意しつつ、他者の選択を妨害しない方法を提案しています。

自分の容姿を売りする仕事を選択して、水着にならないと仕事が来ないのが辛いんだったら、「その業界から出ればいい」。演技力を身につけて劇団に入ってもいいし、クレアさんを手本にして、話術を身につければいい。顔に自信があるなら、顔を晒すYouTuberになればいい。そこから、テレビに出るようになった人もいますね。

その選択ができるのにしないのも個人の選択ですが、他者の選択肢を潰すのはやめろってことです。

 

 

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