松沢呉一のビバノン・ライフ

韓国軍内の性虐待と隠蔽工作にネット民が激怒し、38名の軍関係者が起訴や懲戒処分に—戦争における「許容されるべき差別」[後編]-(松沢呉一)

女性も徴兵対象にしている国々の実際—戦争における「許容されるべき差別」[中編]」の続きです。

 

 

軍隊の男女平等実現の障害

 

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女性徴兵に伴う問題点。

以下はWikipediaより。

 

女性兵士の徴兵における課題点としては、性暴力の多さとその検挙率の低さが挙げられる。例えば北朝鮮では強姦が日常的であり、志願制の米兵では1日に50件程度の性暴力が確認されており、3割以上が強姦被害、6割以上が性的嫌がらせを受けている

 

日本の海上自衛隊でも、連続してセクハラや強制わいせつ事件が連続して発覚していますし、事を大きくしないように周りが動いたように見えます。日本では和を乱すことを嫌うってこともありますが、どこの軍でも見られることのようです。

韓国でもそうで、2021年5月21日、韓国空軍で、イ・イエラム(23)副士官が官舎で自殺しました。

同年3月に、軍の防疫対策を無視して、上官が会食の出席を命令、その帰りの車の中で体を触られ、キスをされ、この後上官は謝罪をして、上官の父親までが、訴えないで欲しいと嘆願。

イ副士官は何度も別の上官や部隊の相談官に訴えますが、組織的な隠蔽が図られ、部隊内の婚約者にも圧力がかかり、彼女は不眠になって休職。

配置換えになって、復職しますが、新たな部署でも事件のことが知られていて(おそらく加害者が自分に有利な情報を流した)、嘲笑を浴び、婚姻届を出した日に自殺。

婚姻届を出した翌日に自殺となっている報道もありますが、遺体が発見されたのが22日で、自殺したのが21日か22日かはっきりしていないためです。これは、軍警察は彼女が自殺した経緯が公になることを恐れて、「変死体で発見された」とし、亡くなった現場の調査をしていない、あるいは調査しながら意図的に内容を保存しなかったためのようです。

軍はこの後も隠蔽工作を図りますが、夫ら遺族がこの事件を公にし、インターネットで怒りが巻き起こり、メディアも取り上げ、当時野党だった国民の力も動いて、6月になって国防部検察は上官を逮捕。これを受けて、空軍参謀総長が辞任し、文在寅大統領が謝罪する大事件に発展しています。

軍はインターネットの力を軽んじていて、その態度がネット民の怒りに油を注いだようです。つまりは、インターネットがない時代であればうやむやになっていた可能性が高い。敵に負ける前に軍はインターネットに負けました。日本でも、レコード大賞がインターネットに負け、いろんなもんが負けつつあります。

✳︎2023年12月22日付「NHK」 海上自衛隊横須賀基地所属の2名の男性自衛官が女性職員とカラオケに行き、猥褻行為をして、その様子をスマホで撮影したのは7月のこと。懲戒免職になったのは12月。なんでこんなに時間がかかっているのかは不明。

 

 

次々と自殺者を出す韓国軍

 

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7月25日には隠蔽に加担したとして国防部検察に逮捕されて収監されていた上官の一人が自殺。

9月になって、それまで伏せられていた名前と写真を公開して、イ・イエラムの両親が真相究明を求める記者会見を開きました。

 

 

両親がこの決断をしたのは、なお国防部検察が真相を究明する意思が感じられないためだとしています。

世論としても、軍総体への信頼を失っているため、国防部検察を監査するための民間捜査審議委員会が設置されたのですが、この委員会が、8月、隠蔽容疑をかけられた上官らに次々と不起訴勧告したことも両親に記者会見を決断させたことは想像に難くない。この委員会の勧告は国防警察や国防部検察による不十分な資料に基づいたためになされたとも言われます。

そして、軍や政府が「再発防止に努める」としていたさなかの8月12日に、またも海軍の女性兵士が基地内で自殺。

 

 

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