松沢呉一のビバノン・ライフ

女性も徴兵対象にしている国々の実際—戦争における「許容されるべき差別」[中編]-(松沢呉一)

韓国で高まる「男女等しく徴兵すべし」の声—戦争における「許容されるべき差別」[前編]」の続きです。

 

 

韓国憲法裁判所「差別を正当化する合理的な理由」

 

vivanon_sentence

本年9月、「男だけが徴兵される兵役法は平等権を侵害する」という訴えに対して、韓国の憲法裁判所は兵役義務に対する男女差別を正当化する合理的な理由がある」として棄却。朝鮮日報の記事を自動翻訳したものなので、憲法裁判所がこのような文言を使ったのかどうかわからないですが、合理的な理由があれば差別は正当化される、つまり、男にだけ兵役義務があるのは「容認されるべき差別だ」と言ってます。

では、「差別を正当化する合理的な理由」とは何か(以下も自動翻訳のため、不正確かもしれない)。

一般に、男性と女性は異なる身体的能力を持っている。武器所持・作動、戦場移動に必要な筋力などに優れた男性が、戦闘に適した身体的能力を備えている

立法者が最適な戦闘力確保のために男性だけを兵役義務者として定めたことを恣意的だと​​は言いにくい

徴兵制がある70カ国以上のうち、女性に兵役義務を課した国はイスラエルなど極めて限定されている

といったところです。

 

 

男女の徴兵制を実施している国々

 

vivanon_sentenceひとつめの「能力の違い」が差別を正当化するのだとするのは無理があります。これが許されるなら、企業が必要な能力を平均的に男が、あるいは女が高いことをもって、どちらかのみを採用することも許されます。

個人の能力を事前に知ることが難しい場合、平均値で差別することも容認され得るかもしれない。パンデミックにおいて、感染率が高いことをもって、国単位で入国制限したようなものです。

しかし、体力であれば入隊時に測定できます。兵役に就かないため、わざと力を出さないのが出てくるのを避けるためには、中学や高校の体育の成績で判断する手もあります。

ふたつめの「最適な戦闘力確保のため」も無理があります。最適な戦闘力確保をするためには、性別を問わず、能力の高い人材を採用する方がいいことは明らかです。

以上は、女性軍人が韓国に存在していることをも否定する内容になっていて、「女は使えないが、形式上受け入れているだけであり、数が増えることは好ましくない」ということでしょうか(以下見ていくように、そういう局面もあり得ますが)。

みっつめの「イスラエルなど極めて限定されている」という表現は微妙。男女共に徴兵対象にしている国を見ていくことで、憲法裁判所の間違いが明らかになります。

✳︎Wikipediaより、「Female graduates of the Israeli Air Force flight course, 2011」 日本語版にはないですが、この「Women in the Israel Defense Forces」の項目には、イスラエル国防軍での女性兵士の歴史や地位について詳細に書かれています。従事できる分野にはなお制限がありますが、女性でもパイロットになることは可能。

 

 

男女平等の徴兵制を実施している国々

 

vivanon_sentence男女の徴兵制を実施している国はイスラエル以外に、マレーシア北朝鮮ノルウェースウェーデンオランダチャドエリトリアスーダンモザンビークニジェールモロッコリビアなど、確認できただけでも10ヶ国を超えていますから、「極めて限定されている」とは言い難い(以上の中には、平時の徴兵を実施していない国も含まれており、狭義の徴兵制度がある国は斜体のかかった6カ国と思われます)。

 

 

next_vivanon

(残り 1796文字/全文: 3293文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ