松沢呉一のビバノン・ライフ

消えた銭湯の思い出—塩湯/よろづ湯/そしがや温泉21/橘湯/千代の湯/高砂湯/山の湯/他-(松沢呉一)

 

よろづ湯の思い出

 

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半月ほど前のこと、「今日は四谷の塩湯に行こうかな」と思い、念のために定休日をネットで調べようとしたら、昨年の6月に廃業してました。あー。昨年行っているはずですが、6月より前だったか。10年ほど前は、四谷エリアに銭湯が3軒あったのですが、全部消えました。

長らく組合の廃業リストを見ていなかったので、ついでにページを開いたら、相変わらずいっぱい潰れてます。思い出深い銭湯もあって、昨年3月に吉祥寺のよろづ湯が廃業してました。

大学の1年間、吉祥寺東町に住んでいて、よろづ湯と同じくらいの距離にあった銭湯に行っていて、そこが定休日の時だけよろづ湯に行ってました。もう一軒の方が広くてきれいだったのと、よろづ湯は近鉄裏のピンサロ街にあったので行き辛かったのです。近鉄百貨店は現ヨドバシカメラの場所です。

その後北町に引っ越し、よろづ湯の近くのビニ本屋には行ってました。ピンサロ街のビニ本屋に行くのはいいのですが、ピンサロ街の銭湯に行くのは避けたい。知り合いに差し入れするために刑務所に行くのはいいのですが、ご飯を食べに刑務所の前の食堂には行きたくないようなものです。と書いて思ったのですが、刑務所の前の食堂に行くのは抵抗がないな。それより銭湯に行く時に客引きに声をかけられる方が嫌です。洗面器を持って行っていたので、実際に声をかけられることはなかったと思いますが。

線路をはさんで南側にはトルコ風呂がありました。今は角海老になってますが、当時は角海老ではなかったんじゃないかな。古い煙突が建っていて、そこにトルコ風呂の文字が書かれていて、中央線からもよく見えました(以下に書いているように、煙突ではなく、宣伝用の金属塔だったかもしれない)。まさに、その宣伝効果を狙っての文字だったのでしょう。

煙突といえば銭湯ですから、よろづ湯に行こうとして間違ってトルコ風呂に入ってしまうことも心配でした。んなことはないですが。

東京の銭湯制覇をやっている時に、40年ぶりによろづ湯にも行きましたが、とくに懐かしさはありませんでした。古びた味わいもなくて、ボイラーの調子が良くないのか、湯温が低く、ここにはもう来ないだろうなと思っただけでした。その通りになりました。

学生時代に行っていたもう一軒の銭湯はとっくに消えていて、積極的にイベントを仕掛けて奮闘していた弁天湯も2021年いっぱいで廃業して、吉祥寺最後の銭湯だったのよろづ湯も消え、吉祥寺の風呂屋は角海老のみ。

✳︎ストリートビューより。いかにも潰れた銭湯って佇まいですが、長期休業中にGoogleの撮影車が来たのだと思います。これを見たついでに周辺をストリートビューで散策したのですが、ピンサロは減って、食い物屋やガールズバーになっています。今なら銭湯に行きやすい。

 

 

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