『セシウムと少女』 アニメ、阿佐ヶ谷、反核の「3A」映画。何も終わってない、つーか何もはじまってないまま映画だけが終わってしまった(柳下毅一郎) -2,862文字-
『セシウムと少女』
監督・脚本 才谷遼
撮影 加藤雄大
出演 白波瀬海来、金野美穂、川津祐介、山谷初男、なんきん
ラピュタ阿佐ヶ谷の経営者である才谷遼と言えばマンガ情報誌「Fusion Product」「Comic Box」の編集者として知る人ぞ知る存在である。まあこの人について語るだけでサブカル裏歴史になってしまうくらいの有名人なのだが、これまでに起こしてきたトラブルの数々についてはここに書くのもあれでしょうから適当にググってみてください。Fusion Product / Comic Box時代には伝説の「ロリコン特集」を作ったこと、そして広瀬隆と反原発運動にコミットしていたことが記憶に残る。アート・アニメーションのほうでは広い人脈を持ち、ユーリ・ノルシュテイン作品をプロデュース。その流れでアレクサンドル・ソクーロフの知己も得て『モレク神』の共同プロデュースをつとめ、ついにカンヌの赤絨毯を歩くにいたる。およそ人格面で誉める声は聞いたことがないが、資金力と行動力だけは万人の認めるところである。さてそんな具合に映画界でも一家を為した才谷氏、東日本大震災による福島原発事故を受け、ひさびさに反原発の血が騒いだのか、じゃあ映画を……くりかえしになりますが、才谷氏、金と人脈はある。そしてアート・アニメーション界ではそれなりに重きを置かれている。そういうわけなんで、できあがった映画は……
三月三日生まれのミミちゃん(白波瀬海来)は、頭はよくて勉強はできるけど、虐めを受けて学校には馴染めない孤独な少女だ。ミミちゃんはもちろん意識が高いので、東日本大震災からわずか三年で、すっかりあのことを忘れて原発再稼働に向けて動いている日本に違和感を覚えている。
「みんな、もう忘れちゃったのかしら……」
そんなミミちゃん、ある日街を歩いていると雨の中で両手をふりあげているおっさんと出会う。おっさんに雷が落雷、あぶない!と思いきやそのおっさんこそ雷神(長森雅人)であった。感電して倒れたミミちゃんだが雷神と風神(飯田孝男)に介抱されて意識を取り戻す。こぎたないおっさんに神様だと言い張られて困惑するミミちゃんだが。
「おじさんたちが本当に神様なんだったら、頼みたいことがあるんだけど」
「へ?」
「おばあちゃんの九官鳥、探してもらえません?」
実はミミちゃんのおばあちゃんが飼っていた九官鳥のハクシ(名前は北原白秋にちなむ)が逃げ出してしまったのである。それ以来、おばあちゃんは意識も混濁して寝たきり状態。二人の神様は自分たちでは……と海神(川津祐介)に相談に行く。かつては鳥と話せたという海神だが、とりあえず大黒(なぜか巴里にいる)とか阿修羅(白熊の毛皮をかぶっている)とか七人の神を呼び集め(しかしセレクションがどうも出鱈目だな……)ておいて
「鳥は水辺にいる! 水辺を探せ! ただしカラスは徒党を組んで悪さをするからカラスには近寄らぬこと」
とみんなでぞろぞろ阿佐谷周辺の水源を歩いてまわる。神様だから神通力使うのかと思ったら、なんか依頼もその解決法も区役所すぐやる課みたいな感じなんですがね。
さて、ここまででほぼ才谷映画がどういうものかわかってくる。アニメ、阿佐ヶ谷、反核(アンチ・ニュークリア)の三つのAなので3A映画と呼ぶことにしよう。
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