『傷だらけの悪魔』 ここまで誰一人共感できない映画も珍しい。「女子高生たちの壮絶な戦い」を逆光を多用した「ポップで斬新な映像美」で見せようとするだけ。 (柳下毅一郎)
→公式サイトより
『傷だらけの悪魔』
監督・編集 山岸聖太
原作 澄川ボルボックス
脚本 松井香奈
撮影 ナカムラユーキ
音楽 吉川清之、岸田勇気
主題歌 Lily’s Blow
出演 足立梨花、江野沢愛美、加弥乃、藤田富、川原亜矢子、宮地真緒、キタキマユ、岡田結実、芋生悠
「comicoで話題の人気コミック、衝撃の映像化!」「“フツー”の女子高生たちの壮絶な戦いを、ポップで斬新な映像美によって切り裂いていく」そうである。最悪だ。これは最悪である。早くも本年ワーストムービー候補の登場である。何がひどいって、これイジメの話なのである。イジメの話を「ポップで斬新な映像美」で描くって、どれだけ無神経ならそんなことができるのか。 しかもただのイジメじゃなくて、過去にイジメられていたイジメられっ子がイジメっ子に復讐するという話で、誰一人好感のもてる人物が出てこない。登場人物が全員性格が悪く心魂さもしく反省も何もしないクズばかりで、それが「ポップな映像美で描かれる」のである。こんだけ徹頭徹尾不愉快な映画もないよ。それにつけても足立梨花、「あまちゃん」以降ひたすら汚れ役しか回ってこないんですけど、事務所ももうちょっと考えたほうがいいと思うよ! いくら主演だからって、これは……
映画がはじまると音楽に合わせて踊る三人の女子生徒と、トイレに顔を突っ込まれる壮絶なイジメにあっている女子生徒とがモンタージュされる。これが「ポップで斬新な映像美」で描くイジメだよ! いやもうこの場面だけでマイナス一万点くらいつけたくなるひどさ。タイトルが出ると舞台は変わって栃木県。にぎやかできらびやかな東京でぶいぶい言わせていた葛西舞(足立梨花)は、父親の仕事の関係で栃木のド田舎に越してきた。「そこそこの美人」という自覚のある舞は、そこそこにやって目立たずクラスに溶けこんでいこう……と茶色い髪も黒く染めなおし、地味なルックで登校する。クラスを見渡してボス格と見えた女王ことユリア(加弥乃)に「だっせーなこいつ」と心中では罵倒のかぎりを尽くしながらも媚びまくって取り入り(言い忘れたがもちろんこの映画は最悪の副音声映画なので、舞の内心は余すところなくすべて語られつくす)、クラス内でも「そこそこ」の地位を確保したと思ったその瞬間ーーてかこの時点でこの主人公はすでに最悪レベルに性格の悪い人間なわけだがーー同じクラスにいて同じく東京から転校してきていた小田切(江野沢愛美)が突然過呼吸の発作を起こす。
「あたし……あたし、この人に虐められてたの!」
「はあ? 何言ってんだおまえ?……あ、ひょっとして玖村か?」
そう、彼女こそが冒頭で虐められていたいじめられっ子。イジメによってすっかり精神を病んでしまった中学生、リスカマニアのメンヘラになったせいで家庭も崩壊したらしく姓も変わって田舎に引っ越してひっそりと暮らしていたのだが、そこに偶然にも転校してきたのが舞だったわけである。飛んで火に入る夏の虫とはこのこと。
「ふざけんな! イジメてたのはチハルとシオリだろ! あたしは何もしてない!」
万事に「そこそこ」をめざす舞は直接的にはイジメに参加せず、あくまでも傍観しつつイジメっ子たちと一緒に「ゴキブリ女」とせせら笑っていたというんだが、そんな言い訳がいじめられたほうに通じるわけがない。てかある意味イジメっ子よりもたちが悪いとも言えないかそういうのって。
(残り 1716文字/全文: 3130文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
タグマ!アカウントでログイン
tags: Lily's Blow キタキマユ ナカムラユーキ 副音声映画 加弥乃 吉川清之 宮地真緒 山岸聖太 岡田結実 岸田勇気 川原亜矢子 松井香奈 江野沢愛美 澄川ボルボックス 芋生悠 藤田富 足立梨花
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ