『ユダ』 -誰もうらやましがらない世界のサクセス・ストーリー(柳下毅一郎)
監督・脚本 大富いずみ
撮影 中村夏葉
音楽 北浦正尚
出演 水崎綾女、青柳翔、水橋研二、NorA、青山倫子、板尾創路
「この世で一体何人の人が、自分が心から幸せだと言えるんだろう?歌舞伎町でわたしの顔を知らない人はいない。東洋一の歓楽街でいちばん高価な商品。それがわたし。誰もが羨む幸せをわたしは掴んだ」
えー、あんまり誰も羨ましがらないと思うんですけどー。そんなナレーションからはじまる本作、元カリスマキャバ嬢立花胡桃の一代記を原作に、歌舞伎町でのし上がる水商売女の姿を描く。誰もうらやましがらない世界でのサクセス・ストーリー、そう、これぞ日本版『ショーガール』だ!
話は二年前に遡る。埼玉の女子高生エリカは彼氏と待ち合わせをしている廃墟に出かける。すると彼氏はエリカの親友と乳繰りあっているではないか。ちょ、ちょ、どーゆーこと!
「いやその……お金借りたりして相談にのってもらってるうちについ……」
「だってえ。あたしの方が大介くんの気持ちわかると思うしい。エリカ自分のことしか考えてないってえ」
なんでお金なんて借りてるのよ!
「だってバイトもできないしさ~子供なんか産めるわけないじゃん」
って堕胎代かよ!
その金を借りるついでに親友とできちゃって、おまけにすがるエリカを突き飛ばして顔に怪我させる。まあここまで最悪な彼氏も見たことがないわけで、エリカが男性不信に陥るのも仕方なかろう。おまけに顔の怪我を客にからかわれてレストランのバイトもクビになってしまう。どうしよう……と途方にくれたところにイケメンのお客(田島優成)がやってきた。
「どうしたの顔? 彼氏に殴られたの?」
って言ってることはさっきの客と同じだよ。でもイケメン無罪の法則によりこのセクハラは許されるのであった。
「お金ないの?じゃあうちにおいでよ」
と渡された名刺はキャバクラだった。金策のあてもないエリカは仕方なく大宮のキャバクラの門を叩く。時給4000円の店で五日間働くと堕胎費用が貯まった(病院の病者が妙にしつこくて、ここらへんが作家性なのかもしれない)。一時間800円だった自分の価値が、ここでなら5倍になる。男性不信を武器にかえる絶好の場を得たエリカはたちまちのうちに店のナンバーワンにのし上がる。
「信じることをやめたら、人の心はびっくりするほど簡単に見えた」
エリカの虜になった中に年齢=彼女なし歴の35歳非モテのコーちゃん(水橋研二)がいた。コーちゃん、まわりの客やキャストから馬鹿にされていたところ、話題のなかったエリカから
「あ、あの!下のお名前なんていうんですか?孝太郎?じゃあコーちゃんって呼んでいいですか?」
って声かけられただけで指名して通い詰める太い客になってしまうのだ。
だがこんな客ばかりを相手にしていてはダメだ! おら東京さいくだ! 新宿でトップを取る! というわけで大宮ナンバーワンの肩書きをひっさげ、エリカあらため胡桃(よくしてくれた先輩の源氏名をもらった)は新宿の高級店に乗りこむのだった。
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