Nick Cave & The Bad Seeds “Into My Arms” ニック・ケイブは超瞑想なんかせずとも神の領域にいけたのです。デカルトの「我思う、ゆえに我あり」なんだと思います
ポーグスのシェーンが亡くなりました。シェーンは何があっても最後は「シッ、シッ、シッ、シッ」って笑っていました。
シェーンとの一番の思い出は、トロージャンズのギャズ・メイオールに連れられて、ロンドンのポートベロー・ロードにあるジャマイカ人が経営しているモグリ酒場に、ニック・ケイブと一緒に行ったことです。モグリ酒場と言っても普通の家の一階をバーにしているだけで、雰囲気としてはデビッド・リンチの『ブルー・ヴェルヴェッド』に出てくるあの感じです。
イギリス人っていつも酒を飲んでいるイメージがあるかもしれませんが、イギリスはリカー・ライセンス(酒の販売)がうるさくって、パブは11時に閉まります。だから11時以降、お酒が飲みたい時はどうするかといいますと、みんなクラブに行くのです。でもクラブも午前3時にはお酒を出さなくなりますので、午前4時とかにお酒を飲みたい時、どうするかというとモグリ酒場にいくのです。
パブでも警察に賄賂を払って、11時以降やっている店もありました。ドアとか閉めて、内緒でやっているのです。なぜかアイリッシュ・パブにそういうのが多かったです。
なんでこんなに厳しいかというと、パブを守るためもありますが、イギリス人に日本みたいに24時間いつでもお酒を飲めるようにしますと、喧嘩を始めます。そうならないために、長い時間お酒を飲まさないようにしているわけです。
で、そんな場所で飲んでいて、ニック・ケイブが気づいたわけです。「こんな所で飲んでいて、警察が踏み込んできたら、俺は捕まるのじゃないか」と。パニックになって、俺は突然帰ると、夜中の3時とかに誰も歩いていないポートベローを駆け抜けていきました。絶対タクシーとかいないんですけどね。ニックはどうやって帰ったのか知らないのですが、そういうニックの慌てた姿をみて、シェーンは「シッ、シッシ、シッ」と笑っていたのですが、それを見て、僕は「お前もヤバいんじゃないのか」と思ってました。「シッ、シッ、シッ、シィ」
シェーンの歌は、すべて空想の世界でした。シェーンはいつもこうやって、いろんなことを頭の中で考えて、「シッ、シッシ、シッ」と笑っていたのでしょう。
逆に気が狂ったような物語ばかり歌ってきたようなニック・ケイブの歌の方はすべて彼の前で起こったことでした。
ニック・ケイブには「ジャック・ザ・リッパー」という曲があります。どういう歌かといいますと、俺の奥さんは鉄の心を持つ、家庭のルールを鬼のように決める。というよくある話です。でオチですが、、そんな厳しい彼女だが、俺はそんな彼女が大好きでキスをしようとしたら、彼女は「ジャック・ザ・リパー」と叫んだ。ようするにジャック・ザ・リパーに犯されるっていうことなのでしょう。
ジャック・ザ・リパーとは売春婦を殺していた犯罪者です。世の男性というのは全てジャック・ザ・リパーだということなのでしょう。家庭にお金を持ってきているから、私たちの気持ちを考えず、売春婦のようにお金を払えばいつでもセックス出来ると思っている。私たちはそんなのじゃないわということなのでしょう。
こんなニック・ケイブなんですけど、一番神の領域に近づいた歌があります。僕がニック・ケイブ一番の曲だと思っています。「イントゥ・マイ・アームズ」です。ヴェルヴェッド・アンダーグランドの「オーシャン」、ジョイ・デヴィジョンの「アトモスフィア」と並ぶ曲です。聴いているだけで、何か暖かいものに包まれたような気にさせてくれます。
ジョン・レノンの「ゴッド」と同じことを歌っています。僕は神を信じない、ヨーコと僕だけを信じるという歌です。
ニック・ケイブはまず「俺は神の介入を認めない」と歌ってきます。
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