久保憲司のロック・エンサイクロペディア

テイラー・スイフト『1989(TAYLOR’S VERSION)』 –白人の幻想は、隅においやられていきます。テイラー・スウィフトが今ここまで強大になっているのは最後の灯火

 

 

2023年の顔といえばオリヴィア・ロドリゴですかね。セカンド・アルバム『GUTS』グランジと70年代ニュー・ウェイヴを混ぜた感じがうまいです。ビリー・アイリッシュの位置をいっぺんにとってしまった感じがします。

 

 

ビリー・アイリッシュの方が、ミクソロディニアンなどなんかよく分かんないスケールで歌っていて、ビヨークみたいで繊細でいいのですが、オリヴィア・ロドリゴはアブリル・ラヴィーンよりうまいのは間違いないです。うまいってコンセプトの感じがですが。みんな進化していっていますね。

オリヴィア・ロドリゴは、彼女の大好きなテイラー・スウイフトを超えるか。ビリー・アイリッシュもお兄ちゃんといういい相方がいますけど、この人にもいいプロデューサーがついています。両者ともこじんまりとしたプライヴェート・スタジオで楽しく録音していますね。羨ましい。こじんまりといっても日本と比べるとデカいですが。

この人たちの前にはアデル、テイラー・スイフト、ビヨンセという化け物がいます。でもまっ、テイラー・スイフトが一番なんすかね。

ザ・ナショナルのメンバーなんかと家に篭ってアルバム作っているのを観た時は、これはレディ・ガガみたいにあかん方向に行くのじゃないかと思ったですけど、全然そんな気配も見せない化け物です。カントリー・シンガーというのが強いのでしょうか。

ナッシュビルにやっぱ行きたいです。すごいみたいですよね。日本でいったら、演歌の街があるみたいな。そこに行ったら、30分くらいである程度のクオリティの演歌を作れるみたいなそんな感じみたいです。まだ発表されていない楽曲が何万曲もあって、何十人ものスタジオ・ミュージシャンが、スタジオに一日中へばりついて、スタジオで声をかけられるのを待っているという。ヒップホップもそうやって作られてますけどね。ハリウッドと一緒です。シナリオが山積みにされていて、それを下読みするだけの奴が何人もいて、そのシナリオを直す奴も何人もいて、そりゃAi導入しようか、ストしようかっていいますよ。

テイラー・スイフト、アメリカで歌を歌うならカントリー・シンガーになるしかないと、そこに住んだって、すごいことやなと。日本で言うたら、安室ちゃんがアクターズ・スクールに通うのにお金がないから、毎日1時間か2時間歩いて通っていたみたいな根性を感じさせますよね。

 

 

お母ちゃん、オペラ歌手、お父さん投資家、どんな家族や。ナッシュビルに移住する時、投資家のお父さん、これがめちゃくちゃ金になるって分かっていたんですかね。ヤバ過ぎます。

で、レコード会社がテイラー・スイフトの原盤勝手に売って何千億って儲けた時に、お父ちゃん何百億儲けたという噂があります。どんな家族や。怒ったテイラー・スイフト(お父ちゃんにはどうも怒ってなさそう)は、その売っぱらわれた原盤のCD全部再録しなおして、新しい原盤を作り直しました。どんだけ根性あんねん。しかもそのクオリティが当時よりも何倍もパワー・アップしています。普通10年前の作り直そうかというとテンション落ちますよ。曲がすごいということなのかもしれませんが、これも完全にカントリーですよね。曲が、物語が、命ということです。

 

 

作り直すのに、一枚1千万くらいは楽にかかると思うのですが、その経費なんか簡単に回収出来て、これからあと何十年も利益産んでいくだろうということなんでしょうけど。いや、すごい。アメリカって3億人いますからね。こういうことが出来るんでしょうね。やっぱアメリカの物語なんだよな。ドイツ人、フランス人、日本人、無理っしょ、同じ英語であるイギリス人でも無理ですよ。サー・エルトン・ジョンでもこれ出来ないでしょ。

 

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tags: Olivia Rodrigo Taylor Swift

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