視点が変わると評価が変わる—都立高校における男女不均衡定員-(松沢呉一)-3,660文字-
多様な視点が必要なことを実感
東京医科大をめぐる一連の話の中で知った「都立高校の定員の不均衡」は、私にとっては「藪の中」に匹敵する面白さでした。視点がズレると評価が大きく変わる。
この話を見るにつけ、ある視点に拘泥することで他の視点が見えなくなってしまいがちなことについては自戒しておきたい。
しかし、東京医科大についてそれを実践しようとすると、いよいよ判断が難しくなります。
高い受験料を払ったのに、男女で不均衡な採点をされて不合格にされた女子受験生の腹立ちはわかる。定員については学校の裁量としておいて、それ以上踏み込まない文科省の立場もわかる。医療の危機的状況を踏まえた時に、手を打たなければならないけれども、一医大で改善することはほぼ不可能なため、「東京医科大のやったことはいけないことだけど、やむを得ない」とする医大や医療関係者の気持ちもわかる。
と皆の気持ちがわかってきて、コウモリ男と言われそうなところに陥ってます。しかし、その上で判断することがたぶん適切で、再発しない体制作りが可能になるのだろうとも思っています。
都立高校の不均衡な男女定員
では、皆さんにも多様な視点が大事なことを実感していただきましょう。
以下は平成30年度都立高校の募集人員から一部をピックアップしたものです。
ここにある全校で男子枠の方が多い。それでも、ここだけ見るとたいした差ではないように見えましょうが、東京都全体では1,094名の差があります(検算していないので間違っているかも)。全体の約5パーセントに相当します。ここだけを見ると、女子受験生が不利です。
これをもって不当だと騒いだ記事はFacebookで批判しました。詳しい数字ははそちらを参考にしていただくとして、数字はさしたる問題ではありません。
この背景にはふたつの前提があります。
●中学高校一貫の私立高は男子校より女子校の方が圧倒的に多い。
●私立の男子校より女子校の方が圧倒的に多い。
いずれも東京都という行政区分内の話です。
この結果、高校を受験する生徒は男子の方が多いにもかかわらず、受け皿は女子の方が多いという不均衡が生じています。もし都立高校が男女等しく選抜をすると、男子の成績が女子を上回っていない限り、男子はあぶれ、女子校は続々定員割れをします。倍率を見ても、女子校は1.00倍平均ですから、辛うじて生徒を確保している状態で、確保できない女子校は続々消えていきます(廃校になったり、共学化したり)。
そのために都立高校では男子の定員を多くしているわけです。
男女別学校を容認する限り、男女の条件は同じにならない
この調整で問題がなくなるわけではありません。
●女子は男子よりも私立に行く数が多くなるため、金がかかります。
●共学校に行きたいのに別学校に行く数が男子よりも女子は多くなります。
●偏差値の高い都立から低い私立に行くケースが女子の方が多くなります。
この三点で不均衡が生じています。授業料については親の年収によって無償化が実現していますけど、該当しない家庭は損をします。該当しないのは金に余裕のある家庭ですから、さして痛くもないでしょうけど。
都立の名門、日比谷高校を受けて、この調整のせいで不合格となり、もっと偏差値の低い私立女子高に入学することになった女子生徒としては、この調整は不当。男子であれば日比谷高校に入れたのですから、偏差値の点でも、共学に行きたかった点でも、女であるために損をしてます。これによって東大に行けなくなったかもしれない。
しかも、彼女の家は赤坂で(仮想とは言え、いいところに住んでんな)、日比谷高校だったら自転車で行けるのに、電車通学になってしまい、時間も交通費もよりかかるようになってしまいます。
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