アンデルレヒトの暴動からブラック・ライヴズ・マターの暴動へ—ベルギーで異常に多い死亡者が出た理由[3]-(松沢呉一)
「ベルギーの数値が示唆する介護領域の感染と死亡—ベルギーで異常に多い死亡者が出た理由[2]」の続きです。
移民に対する政策の転換期へ
ブラック・ライヴス・マターで荒れた国の共通点は移民が多いことです。ベルギーもそのひとつで、ベルギーの人口が増加し続けているのは移民を受け入れているためです。
国民のうち1割以上が国外生まれ、その子どもを入れると2割近くが移民系ということになります。これは永住権を得ている人の数字で、短期の外国人労働者はまた別です。
ベルギーはさまざまな人と文化が交錯してきた歴史から、移民に寛大な国で、しかも放任主義です。同化を求めず、それぞれの文化、宗教を維持することを容認してきました。公用語がオランダ語、フランス語、ドイツ語のみっつもある国ですから(おもにオランダ語とフランス語)、国内で言葉が通じないこともあって、文化の統一はできっこない。
そのため、これまではムスリムがヒジャブをつけて学校に行くことも可能でした。ところが、他のヨーロッパ諸国同様、移民対策については揺れが起きています。とくにISのテロが国内で起き、他国へのテロも、ベルギーが拠点になったことから、移民排斥の動きが高まり、右派によるデモも起き、議会でも移民対策についての対立が深まっています。
ヒジャブについても裁判所が高等教育の場での着用を禁止する命令を出し、この6月4日から実施されているのですが、複数の大学がこれに反対して命令を無視。憲法裁判所に訴えも出されますが、憲法裁判所はこれを合憲としました。
フランスのような普遍主義に基づくライシテ(政教分離)を徹底する国ではなかったわけですから、これは反イスラムの動きとしか思えず、放任の方針を転換したのだと思われますが、法的な筋は通りましょう。しかし、普遍主義の考えから禁止するなら高等教育ではなく、義務教育の場ではないかとの疑問もあって、よくわからんです(もともと義務教育では禁止されていて、さらに高等教育にも広がったってことかもしれないのですが、ここでは重要なことではないので以下省略)。
※2020年6月19日付「TRT WORLD」 ヒジャブ禁止に対抗する大学の動きを報じた記事。写真はラマダン開けの食事会に出席するベルギーのフィリップ王。
ベルギーの移民の多さと感染者の関係
通常の方法でカウントしたところで、ベルギーの感染者や死亡者は多い。はっきり書いたものが見つからなかったのですが、ベルギーでの感染者が多い事情には移民なり外国人労働者が関与していそうです。
そもそもベルギーは人口密度が高い。住環境もよくなくて、これが感染拡大の理由になったことは書かれているのですが、とくに移民たちが住む狭い集合住宅では感染が避けられないだろうと推測できます。
また、介護職は移民や外国人労働者に依存しているのではなかろうか。はっきり書かないのは「あいつらが感染を拡大して、老人たちを殺した」なんて言い出すのが出てこないように配慮が働いているためかもしれないですが、スウェーデンとはまた事情が違うのかもしれない。
いくつかの条件によって、スウェーデンでもドイツでも米国でも移民や外国人労働者に多く感染し、多く死亡した事実があるわけですけど、それを認識した上で克服が可能だし、ベルギーは「推定死亡者」を含めて死者がゼロになってきていることからすでに克服したように見えます。
貧困層は感染リスクの高い仕事をするストレスもあるでしょうし、一方でロックダウンによって失職したことのストレスもありましょう。どこの国でもそうですが、非正規雇用者に皺寄せが来ていて、ベルギーでも「短期失業者の増大」といった表現がなされています。日雇い労働者の仕事がなくなっているようなケースです。
どれがどのように作用したかまではわからないですが、以上のことが、とくにブリュッセルでブラック・ライヴス・マターの行動が荒れた背景にありそうです。
※フランス語版Wikipediaから。日本語は自動翻訳です。2014年の方が外国出身者とその子どもの数が減っているのは、2010年代に入って締め付けが強くなったためかと推測できますが、正確なことは調べてません。EU内の移動も多いのですが、モロッコからフランスに移住したあとベルギーに移住した場合はフランスからの移住にカウントされているのだろうと思います。
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