弘田三枝子と三浦春馬の死を知った日—RADWIMPS野田洋次郎の優生思想[1]-(松沢呉一)
抜けていた死を埋める
仕事の件だったり、それ以外だったりで、先週は続けて知人に会って、いろんなことを知りました。国外のニュースはよくチェックしていますが、国内のニュースはチェックが甘い。
弘田三枝子が亡くなったんですってね。私が物心ついた頃にすでにテレビで大活躍だったので、同世代って感じではありません。とくにファンだったこともなく、長い間、その名前を思い出すこともなかったのですが、自分でも意外なほど、その死に動揺しました。73歳ですから、年齢的には「まだ若いのに」ということでもないのですが、意識することはなくとも、彼女の歌はその存在を強烈に私の中に植えつけていたってことでありましょうか。
驚きの質はまったく違うのですが、もうひとつ驚いたのは、三浦春馬の自殺です。誰かは知らないまま、アイドルグループの「KissBee」の鷹野日南が自殺した記事は見ていたんですけど、三浦春馬は見逃してました。
三浦春馬も高野日南もそれぞれ理由は違うので、軽卒なことは言えず、個別の死ではなく一般論として、この時期に死にたくなる人たちがいることは理解できます。
私自身、ここに来て気分がすぐれず、人に会うことも億劫でした。はっきりとした原因があるわけではないのですが、自粛の空気と長かった雨のせいだと思ってます。
図太い私でもそうですから、新型コロナで経済的に逼塞していなくても、死にやすい年齢じゃなくても、先が見えないこの閉塞感と長い梅雨で精神をやられるのはいるでしょう。
端的に言えば生きていても楽しくないし、希望がない。楽しいことをしようとすると叩かれる。
私はそういった空気から逃れるためにSNSからも遠ざかって、マダガスカルで新種のネズミキツネザルが見つかったなんて記事を読んでいるうちに、世間で話題になっていることを見逃します。
いざ人と会っていると気が紛れますが、いい話がひとつあったら、その何倍もイヤな話を聞くことになって、結局気分は淀みの底に沈んだままです。
なお、ここ一週間で一番嬉しかったことは、ひさびさにサイゼリヤに行ったことです。サイゼリヤは安くてうまいなあ。夕方だったのについ食ってしまって、夜、歌舞伎町の「上海小吃」に行ったのに、あんまり食えなかったのが心残り。
※「上海小吃」は東京都推奨「感染防止徹底宣言」の店です。どんな雰囲気の店かは「歌舞伎町の怖い話—飲み屋街の怪談 2」を参照のこと。「上海小吃」に行ったのは今年初だと思うのですが、客が少なく、ママも暇そうで、後半はずっと現状を聞いてました。6月に客が戻ってきて、「これでなんとかなる」と思ったら、7月にまた客が激減。現在、売り上げは通常の半分以下。「このままだとあと2ヶ月もたないヨ」と言います。物件の契約解除は2ヶ月前に申し出る契約のため、「そろそろ決断をしなければならない」とも言ってました。あの店は露地ではありますが、入口と窓を開け放しているので、風通しはよく、外の屋台で食っているようなものです。しかし、歌舞伎町全体、人がいない。私らが話している間も、他の店のママが暇潰しに来てました。「夜の街」叩きのため、歌舞伎町はどこもこんな状態です。こういうことがまた気分を沈めていきます。
野田洋次郎の優生思想
先週は、身近なところで起きたイヤな話を聞きましたし、優生思想が復活しつつあるのではないかとの話も聞きました。
私は医師によるALS患者に対する嘱託殺人の件も知らずにいて、てっきり優生保護法の裁判についての話かと思って相手をしていたのですが、そこからRADWIMPSの野田洋次郎のツイートが炎上しているという話を聞きました。このことも私は知らず。知らないことばっかり。
半月以上前のツイートですが、嘱託殺人があってから批判がさらに殺到しているようです。すでに批判は出尽くしているでしょうから、その上重ねて叩く意味はないでしょう。つうか、こんな程度の人間はゴロゴロいるので個人を叩いてもしょうがない。
しかし、ちょうどこのあと、優生思想に関するシリーズを出そうと思っているので、このツイートを素材にして、優生思想の問題点を先に整理しておきます。
たぶん優生思想を批判する場合、ナチスに重ねて民族差別、障害者差別に重きが置かれ、もちろんそれは間違っていないのだけれど、私はどちらかと言えば「国家と個人」「社会と個人」をどうとらえるかに重きがあります。そこを理解しておいて欲しい。
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