2人の間ではなかったことになっていた初対面のトラブル—死して初めて書く宅八郎との出会い[下]-(松沢呉一)
「トラブルから始まった—死して初めて書く宅八郎との出会い[中]」の続きです。
コンサートにタダで入ろうとする人々
コンサート会場にタダで入ろうとする人間を追い返すのも受付の仕事です。毎回いるわけではないですが、そういう人間が時々出没するのです。
もっとも悪質なのはどっかの雑誌の名前を騙る輩です。雑誌には招待状を出していますし、担当者の顔は覚えてますが、「代理で来ました」なんて言うのがいます。そういう場合でも、担当者は送った招待状と一筆添えた名刺を持たせたりするものです。
雑誌の音楽担当はこっちの事情がわかっているので、おかしなことはまずしないのですが、特集記事で世話になった編集者に招待状を送ると、暇をしている編集者を何人も連れてきたり、代理店やクライアントがデート気分で部下を連れてきたりします。とくに席が決まっているコンサートでは関係者席が足りなくなることがあるのですが、こういう場合は無下には断れないので、騙っているのではない限りは入れていたかな。混んでいる時は立ち見で。
また、酔っぱらった席でミュージシャンやスタッフが「明日ライブがあるからおいでよ」なんて口を滑らして、翌日になったらきれいさっぱり忘れて、ゲストリストに入れていないなんてこともあります。外タレでも前夜セックスした相手をゲストリストに入れてないこともあります。
ミュージシャンのゲストは仕事と関係のない友だちや家族を呼んでよく、そのにためにゲストリストがあるわけで、入れ忘れていた人の責任ですから、無条件に断っていい。セックスしてても関係なし。
しかし、こういう人たちを「どうぞどうぞ」と入れることもあります。チケットが売れず、ガラガラの場合です。ミュージシャンとしては気分が悪く、事務所なりイベンターなりへの不満、不信にもなりますし、客が少ないと盛り上がらない。盛り上がらないと次回につながらない。
こういう場合は数日前からチケットを安く手売りしたり、タダ券をばらまいて人を集めます。それでも埋まらないと、横の道を歩いている人たちに声をかけてでも人を集めたい。
前に沢田研二が客が少なくてコンサートをキャンセルした騒動がありましたが、あれはそういうことなのです。チケットが売れてないのはアーティストの責任でもあるのだけれど、無料でも客を入れることで体裁を整えるのがイベンターの仕事であり、それをやらないイベンターと気持ち良く仕事ができるかって話。本が売れないのは著者の責任でもあるのだけれど、まるで売る気のない版元には文句を言っていいのと同じ。チケットを買って楽しみにしていた客には失礼ですから、コンサートを終えてから文句を言うなり、二度と仕事をしないなりの判断をすべきですが、沢田研二が怒った気持ちは理解できます。
こういう動員の副作用として、いつでもタダで入れるのかと思ってしまうのが出てきます。その時の客もそういう類いかと思いました。
※「真剣に解散を考えている。」ってバンドの「TVショッピング feat. 宅八郎」 このバンド自体知りませんでした。
無理矢理会場に押し入ろうとする男ともみ合いに
その日のインクスティックは超満員でしたから、無駄に人を入れるわけにはいかない。金を払った人が、人が多くてステージが見えなくなったり、酸欠で倒れたりしたらどうするって話ですから、ゲストはできるだけ入れたくない。
まだ入れる余地があれば当日券で入ってもらうこともできますが、それもできない。
仮に、ゲストリストに入れ忘れていただけだとしても、確認ができない以上、これは帰っていただくしかない。忘れた人があとで謝るしかないのです。もっと早い時間に来てくれていたんだったら対処の方法があったでしょうけど、遅れてきたのは自分のせい。
「すいませんけど、今日はお帰り下さい」
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